アリババグループのECモールサービス 天猫・淘宝・天猫国際の違いやメリット・デメリットについて
目次
日本製品“爆売り”1日で1億円超叩き出す
広告、手数料など利益圧迫の不安も
「もっと安く、もっといい品を!」を求める中国の消費者ニーズは留まることを知りません。中国のインターネットユーザーは、すべての商品の価格や品質が比較できるネット通販サイトをパソコンやモバイル端末にしがみつき、目を血走らせながら品定めしていると言っても過言ではないでしょう。
こうした中国国内のニーズを汲み取り、事業を拡大してきたのがEC(インターネット商取引)モールサービス、BtoCの天猫(Tmail)・天猫国際(Tmail Global)、CtoCの淘宝(タオバオ)を運営するアリババグループ(阿里巴巴集団、本社・中国杭州)です。アリババグループの最大の強みは、圧倒的な中国国内のネット通販シェアで、淘宝がCtoCの約9割、天猫がBtoCの約6割を握っています。11月11日の「独身の日」は毎年、ネット通販で大規模なセールが行われ大量のユーザーがモールにアクセスします。新規出品した日本製品がこの1日で1億円超の売上げを叩き出すことも少なくありません。一方で、値引きや広告料、販売手数料、送料、仲介料、関税といった販売コストが利益を圧迫するという不安が付きまとい、出品者の悩みの種となっています。
淘宝 「安いね!」「いいね!」で販促
天猫 ブランド品、高品質品が支持
まずアリババグループの主な通販サイトである淘宝、天猫、天猫国際のそれぞれの特徴を見ていきます。CtoC(消費者間の取引)の淘宝は、出品している個人ユーザーの評価や価格が安いことが消費者の購買基準として優先されるのに対し、BtoC(企業と消費者の取引)の天猫・天猫国際は企業ブランドや商品の品質が優先される傾向にあるようです。サイトの収入源も異なり、無料出店できる淘宝は主に広告費収入で、天猫・天猫国際が販売手数料や保証料で運営されています。
淘宝には約8億アイテムという膨大な数の商品が出品されており、出品者は自分の出品した商品に目を留めてもらうために常に頭を悩ませています。広告の課金サービスを利用したり、中国版Twitterと言われる微博(Weibo)の口コミを活用したり、有力ブロガー(キーオピニオンリーダー)と連携したりするなどし、サイト内やネット上で注目を集めて販促しています。ですが、同じジャンルの商品や同一商品が多く出品されているケースがあるため、最終的には低価格でなければ販売成立に結び付かないことのも少なくありません。販売実績に対し、広告費などの販促コストの負担が大きく撤退を余儀なくされる出品者が出ていることも事実です。
Weibo投稿から淘宝へ誘導
淘宝での“勝ち組”と言われる出品者の販促タイプとしては、「専門家タイプ」や「タイムセールタイプ」があります。「専門家タイプ」は、美容品などの専門ジャンルに特化し、Weiboで美容効果の解説や使用体験レポートを行うなど、宣伝色がなく消費者にとって有益な情報を提供して支持を得ています。Weiboに多くのフォロワーを持つことが多く、投稿した商品を見たフォロワーは淘宝から購入できるようになっています。
「タイムセールタイプ」が支持される理由は、中国であまり流通しない高品質な商品が安く手に入ることです。主な手段としてはメーカーや問屋から安く調達するほか、日本のドラッグストア・量販店のタイムセールや期間限定セールなどを利用して低価格で大量に仕入れ、淘宝で販売します。中には日本の小売店の店頭に並ぶ商品の購入を代行して手数料を得るケースもあります。WeiboなどのSNSを使って商品情報を拡散させることで、消費者のタイムリーな反応を見て仕入れ量を調整するなど、在庫リスクを少なくした確実な販売が利益を得るためのコツの一つになっているようです。。
天猫を足がかりに中国進出
次に天猫の説明に移りますが、その前に天猫と天猫国際の違いについて説明しましょう。天猫は中国に法人を設立してネット通販を本格的に行いたい企業向けなのに対し、天猫国際は中国に法人を設立しなくてもネット通販が行えるよう2013年に設立されました。天猫国際は日本など中国国外からの発送のため、現地に在庫を抱える必要がなく幅広い商品が扱え、税金、商標、決済も日本で行えます。出店者は中国での現地法人設立や倉庫などの施設建設の経費を抑えられ、消費者も中国国内で流通しない世界中のブランド品にアクセスできるというメリットがあります。
天猫・天猫国際には、ユニクロ、マツモトキヨシ、キリン堂、コストコ、P&G、ナイキ、リーバイスなどの中国国内外から約5万店の出店者が約7万ブランドを出品しています。天猫・天猫国際に出店するメリットは、高品質で「安全・安心」な商品やブランド品を求める中国の消費者にアプローチできるということです。
2010年ころから日本企業をはじめとする中国国外の企業が中国に実店舗を出店していますが、販売、運営に苦戦している店舗が少なくありません。天猫・国際天猫では、立地を問わずに出店でき、効率的に自社の取り扱う商品のジャンルに関心の高い消費者に売り込むことができるため、出店が“爆発的ヒット”に繋がるケースもあります。
ただ出店に際し、保証金や販売手数料などの出店コストが重くのし掛かかるため、中国国内で低価格志向が高まる中、定価での販売を維持できるかが成功の鍵となります。自社のブランド確立、他の商品との差別化が図られていなければ価格競争の波に即座に呑まれてしまいます。天猫・国際天猫への出店は販売コストがかかるものの、中国で実店舗を出店するよりもコストが抑えられることもあり、利益を度外視して中国進出の足がかりにしたい企業も数多く存在するようです。
実店舗の顧客をもっとネットへ
さて、ここまで淘宝、天猫、天猫国際の現状について説明してきましが、中国のネット通販業界を支配した今、アリババグループのECモールサービスはこれからどこへ向かっていくのでしょうか?さらに規模を拡大していくためには、海外の新規ネットユーザー獲得、中国国内の実店舗マーケットの一層の取り込み、中国でネットを利用しない消費者の取り込み、などが課題になってくるでしょう。これらに関してはすでに動き出しています。ここからは、淘宝、天猫、天猫国際のそれぞれの特性を活かしたマーケット開拓と展望について見ていきたいと思います。
ECサイト使用法、実店舗で指導
2019年、農村に10万拠点へ
淘宝
圧倒的な品数と低価格を武器にこれまで中国国内のモバイルユーザーを中心に急激な拡大を続けていた淘宝ですが、ここに来て新規ユーザー数の伸び悩みなど成長に陰りが見えはじめています。主なモバイルユーザー層へ浸透しきったこと、ネット通販環境の多様化などが理由としてあげられます。そこで淘宝が特に力を入れるのが中国農村部の開拓です。2014年に「農村淘宝」を立ち上げ、ネットを利用しないユーザー獲得に向けて、人口約6億人を超えるとも言われる中国の農村地域に進出しています。
農村淘宝はパソコンを設置している実店舗で店員が常駐し、パソコンに不馴れな高齢者などに使用法の指導を行います。現在は約1万4000店まで広がっており、2016年に4万店、2019年に10万店を目指しています。農村淘宝の特徴は、拠点内のパソコンで店員と相談しながら商品の売買ができるという点です。購入した商品は拠点に届く仕組みで、食品、日用品、洋服、家電、農薬など一部の売れ筋商品はその場で買うことができたり、地元特産品を出品したりできる店舗も存在します。
都市部では、淘宝のサービス向上で頻繁に利用するユーザー数を増やすことに力を注いでいます。淘宝を通じた中継映像や音声をリアルタイムに配信するライブストリーミングでユーザー同士のマッチングを高めるなど新機能の開発に取り組んでいます。
ベビー、化粧品、健康食品など
日本メーカー約200社に触手
天猫・天猫国際
天猫・天猫国際は東南アジアでの販売拡大を目指すとともに、日本の有名メーカーへのアプローチを強めています。中国国内のBtoCのECサイトで約6割のシェアを持つ天猫ですが、近年は直販型インターネット通販大手・京東集団(ジンドン)をはじめとする他サイトの登場、SNS上での取引増加などで他のネット取引との差別化が求められています。品揃え強化のため多くの海外の有力メーカーを取り込む必要があり、その中核を担うのが東南アジア戦略で、成功の鍵を握るのは高品質な製品を生み出せる日本のメーカーだと言えます。
東南アジア進出を語る上で欠かせないのが、孫正義氏率いるソフトバンクグループの存在です。孫氏は2016年5月に、天猫、アリババグループが出資するシンガポールのネット通販企業Lazada、アリババグループとソフトバンクグループが出資するインドのSnapdealが約30億人の消費者を抱えることに触れ、「日本のメーカー・ブランドと小売企業の中国・アジアECへの進出を後押しします」と語っています。
今後、天猫、天猫国際はソフトバンクグループとのジョイントベンチャーである日本法人のアリババジャパン(本社・東京)とともに中国で人気の日本製品の安定調達、これまで需要の取り込めていない日本製品の取り扱いを強化していきます。資生堂、アスクル、協和、ユニ・チャームなど日本を代表するメーカー約200社に触手を伸ばし、ベビー・マタニティ、化粧品、健康食品、トイレタリー、食品などの人気分野の製品を中国・東南アジアで拡販する計画です。
“リアル”な交流に商機
クラウドでマッチングも
「この商品についてもっと知りたいのだけれど」「こういう商品があったら助かるなぁ」。そんな消費者のリアルな声をタイムリーに拾えるかが、今後の商戦に大きく影響してくるかも知れません。SNSなどのコミュニケーションツールが発達した現在では、ネット通販のスタイルも売り手側の一方的な情報発信だけでなく買い手側からも多くの要望が寄せられます。そんな時、売り手は流通する膨大な商品情報を把握し、即座に対応できなければ商機を失ってしまうことにも繋がりかねません。
今後アリババグループは、EC取引による大量のデータ高速処理や顧客ごとのニーズに応じたサービスなどを提供するクラウドコンピューティング事業を有望視しています。消費行動の分析によって効率的な販売を目指すほか、顧客のより細かなニーズにも対応することで商機を確実なものにする狙いがあります。
また、消費地と生産地の情報交換・人材交流にも力を入れます。リアルな消費者の声を天猫・天猫国際の出店企業の商品開発に活かすため、中国市場にマッチする製品開発を目的とした「China EC workshop」を2016年上旬に設立しました。ここでは、アリババグループが蓄積してきた中国EC市場のデータを参加企業と共有して製品研究・開発を行います。そのほか、天猫・天猫国際のカテゴリー責任者との情報交換会やアリババグループのトップマネジメントメンバーが参加するエグゼクティブカンファレンスへの招待も実施するなどし、積極的に人材の交流を進めていく方針です。
「安くて安全・安心は当たり前」が中国国内に広がる中、消費者の要望はさらに細かく高度に、そしてタイムリーなっていきます。こうした要望に耳を傾け、すぐに商機に変えることができるのでしょうか。この問いへの鍵は人や情報の“リアル”な交流が握っているのかも知れません。
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