中国の「新越境EC制度」とは
中国では2016年4月8日から「新越境EC制度」をスタートしたが、突然の事態に混乱が生じたことで新制度の一部を延期するなどの措置がとられていた。この新越境EC制度の全面的な適用開始がいつまで延期されるか、まだ確定はできない。
(出典:https://www.jetro.go.jp/ext_images/_Reports/01/0d136f54fbd8bc54/20160096.pdf)
目次
中国の税の種類と内容
本題に入る前に中国の流通に関わる現行の税の種類と内容を説明しておこう。
1.関税
中国に輸入される商品に対して、中国政府が課す税金。(いわゆる一般的な関税と同じ)
2.増値税
流通段階で商品に課す税金で、日本の消費税にあたる。基本税率は17%で、生活インフラとなる天然ガスや穀物、食用油、化学肥料、農薬、食塩など一部の特定品目への増値税には低減税率13%が適用される。
3.消費税
特定の嗜好品や贅沢品に対して工場出荷時か輸入時に課す税金で、品目によって3~45%が課税される。日本の酒税などに類似する一部の贅沢品に課す特別税だ。全商品にかかる日本の消費税とは性質が異なるので注意したい。
4.行郵税
個人輸入物品(個人が海外から買ってきたもの)や個人輸入郵送品(個人輸入したもの)に課す税金で、商品ジャンル別に税率が分けられており、50人民元以下の場合は免税となる。
中国における越境ECの税制概要
日本から中国向けに越境ECを行う方法は大きく分けて二つある。ひとつは日本のEC運営サイトを通して中国の顧客にダイレクトに販売する方法で、もうひとつは中国のECサイトに出店して販売する方法だ。
中国で貨物としてアイテムを輸入する場合には、輸入者は関税、増値税、消費税を納付する必要があるが、中国越境ECで個人顧客向けにEMS等の方法で輸入されるアイテムには行郵税が課税される。
直送モデル(日本にあるECサイトから販売する方法)
直送モデルは、日本のEC運営サイトに出品しているアイテムを中国の顧客からオーダーが入るたびに発送する。日本からDHLやEMS等の国際宅配便を利用して商品を消費者に直接配送する方法が一般的だ。この場合は個人輸入となり、輸入時に行郵税を納付する必要がある。
保税区モデル(保税区を活用した越境ECビジネス)
保税区(地域)とは、海外から輸入された貨物を、輸入許可がとれていない状態で関税を保留としたままで保管できる場所のことを指す。
新越境EC制度とは
中国政府の商務部は2016年11月15日に越境ECの輸入品に関する新しい制度のスタートを2017年末までに延期すると発表した。その後さらに調整が加えられ、2017年9月には2018年末まで延長すると発表されたのだ。
(出典:http://www.clips-web.co.jp/chinablog/2017/09/21/post-2467/)
直送モデル
後者の三単合一による直送方式にも保税区の場合と同等の税率が適用される。三単合一とは、注文情報、支払い情報、輸送情報の3つの情報がデータ化された通関システムのことを指す。これは中国越境ECサイトを通して注文された商品に関するもので、この場合総合税として11.9%、47%の税率となる。
(出典:https://www.post.japanpost.jp/notification/pressrelease/2017/00_honsha/1130_02_02.pdf)
電商税
電商とは、eコマースのことで、越境ECの商品に対していかかる税がこの電商税である。中国の国務院に認定された保税区モデルでの越境ECができるのは以下の10の試験都市となる。
・広州
・重慶
・深圳
・上海
・杭州
・寧波
・鄭州
・天津
・福州
・平潭
ポジティブリスト
保税区モデルでの取り扱い可能品目を、国務院はポジティブリストとして公開している。ポジティブリストに載っている商品のみが越境ECで取引できるというルールに変更になったのだ。このリストには現在1293品目が掲載されている。リストに載っていない商品を輸入する場合は一般輸入となり、電商税の優遇措置ではなく関税、増値税、消費税が課税されることになる。
(出典:https://www.jetro.go.jp/world/qa/J-170402.html)
新越境EC制度の影響は
すべてを課税対象にすることで、脱税につながる直送商品に対する検閲の強化が実施されるかもしれない。中国は一般貿易における検閲制度・申請制度がとても厳格な国だ。中国政府の一連の政策には、正規ルートでの海外からの商品流入に対しての検閲・審査基準を下げるという意味合いはない。
この新制度には中国が越境ECを活用して、税関の検査が行き届く範囲内で海外商品を国内に流通させる仕組みを作ろうという目的があるのだ。今後中国への商品販売の拡大をめざす日本企業は、こうした仕組みや中国政府の目的を把握しておく必要がありそうだ。
新制度の全面施行が確定か?
越境ECで購入された商品は、果たして「貨物」なのか、それとも「個人物品」なのか。この問題に関して中国政府は一定期間あいまいだった。しかし、後になって中国政府商務部が、後者であることを明言した。
現段階で政府は越境EC小売輸入ビジネスの安定性を重視しているようだ。越境ECで取り扱われる小売輸入商品については、今後しばらく「個人物品」として取り扱うと発表しており、業界内ではこれを高く評価する声も上がっている。
新制度施行をさらに延期
中国の商務部は9月20日に会見を開き、新越境EC制度の一部スタートを2018年末までに延期することを明らかにした。2016年4月に新越境EC制度をスタートしたが、急な変化により中国現地が混乱状態となったため制度の施行を2017年5月11日まで延期することになった。その後、2016年11月には2017年末まで延長すると発表していたが、その後更に延期となったのだ。
中国が新越境EC制度を延期したのはなぜだろうか。ひとつには、中国人ユーザーによる越境EC利用が消費活性と中国経済に寄与していることが理由として挙げられる。中国人向けの越境ECサイトに人気が出はじめ、海外現地の小売店と越境ECサイトでの販売価格がほぼ同じといえるほどになった。
わざわざ海外に行って商品を購入するよりも越境ECサイトで商品を買ったほうが良いという状況に現在なっているのだ。取引量が増え、中国人向け越境ECサイトの利用が増加することによって「中国国内での税収が向上してきた」との見方があるようだ。しかし、2018年末まで延期する詳細な延期内容は説明されていない。
これから先、新越境EC制度の全容がどうなるか注目されるところだ。近年、越境EC市場は急速に成長している。中国の大手リサーチ会社が発表した「中国越境EC市場研究報告」によると、2016年中国の越境EC輸入輸出取引額は6兆3千億元(約100兆円)に達している。
(出典:http://j.people.com.cn/n3/2017/0705/c94476-9237457.html)
越境ECのユーザーは延べ4100万人に達している。中国越境ECによる輸入商品が個人の物品と分類されたため、2018年も引き続き越境EC市場の活性化が進みそうだ。
(出典:http://www.clips-web.co.jp/chinablog/2017/03/28/post-2199/)