中国にも「低欲望社会」迫る。“佛系”“喪文化”から脱出し、中国を元気にする政策とは。
中国、低欲望社会へ接近。という記事が話題となっている。昨年は“佛系”が「2018年度十大網絡(ネット)用語」の4位に入った。例えば、佛系青年とは「浮世に嫌気がさし、達観した男子」を指す。90后(90年年代生まれ)たちの時代背景、物質的な欠乏感のなさ、欲求の小ささを表している。また“喪文化”という言葉も流行りだ。これはSNS上の自己表現を喪失したときの、情感の“不順”などを表すそうだ。中国は「低欲望社会」立ち向かうのだろうか。
昨今の青年たち
某省某市で仕事をする30歳独身の男性のケース。収入は高くない。父親は早世したが、母親は年金暮らしだ。彼は結婚を望んでいない。一家の中心として、今後どうするつもりだ、と尋ねても、積極的な反応は見せない。収入も今で十分という。彼と母親は2軒のマンションを持ち、そのうちの1軒に住み、もう一軒は賃貸に出している。富裕ではないが、もっと生活を向上させたいという意気込みはない。
別の青年は、とても聡明で、考え方もしっかりしていた。しかしやはり、結婚や不動産購入には全く関心がない。彼の父親は上場大企業の管理職で、深圳市に複数のマンションを持っている。生活には何の不足もない。
低欲望社会へ接近
昨年民政部の発表した「31年(1987-2017年)中国人婚姻数居」によれば、結婚率は4年連続で下落、離婚率は15年連続で上昇している。晩婚化も進み、江蘇省では、平均初婚年齢は34.2歳に上昇した。
中国の若者たちは“佛系”“喪文化”に身を置き、間違いなく「低欲望社会」に接近している。低欲望社会の定義は、大前研一氏の著書に描かれている。
1 若者はリスクを避け、安逸を望む。
2 少子化、人口減少が継続する。
3 物欲ではなく成功欲。
4 金融緩和、しかし消費伸びず。
中国経済は調整期に
中国社会の現実は、まだ完全には「低欲望社会」の定義に符合しているわけではない。しかし、すでに少子高齢化は出現し、消費者心理も以前とは確実に変わった。
例えば自動車市場の不振である。2019年上半期の自動車販売量と生産量はそれぞれ1213万台と1232万台、前年比13.7%減、12.4%減となった。自動車業界の猪突猛進(高成長)は、比較的長い間継続した。しかし、人口オーナスの出現、需要減少、収入減など社会は微妙な段階に突入した。経済も調整期に入り、成長エンジンを失った。企業家たちの多くは、その事実にに呆然としている状態だ。
「低欲望社会」を退ける政策
もし富貴を望まないなら、当然経済成長のエネルギーも出てこない。「低欲望社会」の陥穽を避けるには、どうすればよいのだろうか。3つの政策を指摘している。
1 税制…税率の高さ。個人所得税率は、最高45%に達し、これはベトナム、ポーランドなどたいていの国よりも高い。また総税率は67.3%、世界12位だ。議論はあるものの、企業負担が多いのは争えない事実である。
実際に高税率の影響を被るのは、高収入、ハイスペックの人材群である。イノベーションの継続という発展スタイルにとって“核心”である、彼らを引き付けておくことができない。
2 教育改革…今中国は2種類の人材を必要としている。1つはスティ-ブ・ジョブズのような創造型の人材。もう1つは、ドイツ式の職人である。ドイツの職業教育は出色だ。中国教育改革の方向性はこの2つでよく、明解である。
3 不動産税制…中高年が不動産の大部分を所有し、若者に回らない状況を改革しなければならない。
まとめ
中国の成長型経済発展モデルは、調整期に入った。若者たちはそれを予見していて、早めに自分の世界を確立したのかもしれない。ただし彼らの新しい武器、SNSやショートビデオ投稿などは、極めてパーソナルな行動だ。表現さえ認められれば、儲けなくてもよい。ということであれば、やはりそこは「低欲望社会」への入口だろう。中国の若者文化はどこへ向かうのか。今後の中国経済、ひいては世界景気を占う意味でも、彼らの動向からは目が離せない。