微信銭包(WeChat Wallet/ウィチャットウォレット)のポータル化を解説
目次
あらゆるサービスをワンストップにしてポータル化
微信銭包(WeChat Wallet/ウィチャットウォレット)の機能がどんどん充実してきています。アプリを立ち上げて、微信銭包(WeChat Wallet/ウィチャットウォレット)のインターフェイスを表示させると、そこには公共料金の支払い、ショッピングから配車、ベビーシッターや訪問サービスの手配、ホテルの予約、イベントや映画のチケット、鉄道のチケット購入などのアプリのアイコンが並んでいて、いずれも微信支付(WeChat Pay)で決済ができるようになっています。こうなるとユーザーとしては、ECモールや配車サービス用のアプリを他からダウンロードしてインストールするということを手間だと感じるようになるのではないでしょうか。腾讯(Tencent/テンセント)としては、モバイル決済のアプリに日常生活に必要なサービスを微信銭包(WeChat Wallet/ウィチャットウォレット)にひとつに集めて、そこに一種のポータルの役割を持たせることで「ネット体験は微信(WeChat)を通してだけ」というユーザー囲い込み戦略が窺えます。
スタバも新サービスを開始
2017年2月10日から微信銭包(WeChat Wallet/ウィチャットウォレット)に新たな機能が加わり話題になっています。2016年12月にスターバックスは、「2017年初めから微信(WeChat)と新しいソーシャルギフトサービスを共同で立ち上げる戦略的提携」を発表していたのですが、それが「用星説」という形リリースされたのです。微信銭包(WeChat Wallet/ウィチャットウォレット)を開くとスターバックスのアプリのアイコンが現われ、それをタップして進んでいくと2種類の新たな機能が表示されます。一つが、ドリンクメニューを指定してギフトとする機能、もう一つが一定の金額をギフトカードとして贈る機能です。そこからお祝いなどのメッセージを追加するページに遷移し、さらに微信(WeChat)の友人の中からギフトを贈る相手を選択する画面に切り替わります。もしギフトを贈られた側が24時間以内に受け取らなければ、ギフトの購入に支払われた金額が贈り主に返金されるようになっています。
ポータルの門戸開放?
これまで、微信銭包(WeChat Wallet/ウィチャットウォレット)にひとまとめにされていたショッピングや配車などの機能は、京東(JD.com)、58到家、滴滴などで、いずれも微信(WeChat)を提供する腾讯(Tencent/テンセント)と資本関係を有する企業の提供するサービスでした。しかし、今回初めて腾讯(Tencent/テンセント)ととは資本関係の全くないスターバックスのサービスが追加されたことは一つの始まりを感じさせます。微信銭包(WeChat Wallet/ウィチャットウォレット)をポータル化していく上で、腾讯(Tencent/テンセント)とは資本関係のない企業にもこのポータルへの参加の門戸を広げたことが宣言され、このメッセージを受け取った多くの企業が中国でも有数のポータルへの参加を目指すレースを始めたと見ることができるのではないでしょうか。
スタバはアップルを見限ったか?
2017年現在スターバックスの中国国内の店舗数は2400店を上回り、2021年までには5000店にまで伸ばす計画を持っています。中国にスターバックスが上陸した当初は、アメリカのミドルクラスの消費スタイルを体験できるとして話題になったのですが、それも最近では輝きを失いつつあり、スターバックスとしても新たな展開が迫られているタイミングでした。そこで目をつけたのが、中国でものすごい勢いで普及を続けるモバイル決済で、これによって実店舗やブランドと顧客をより緊密に結びつけようとしたのです。スターバックスは中国ではすでに2016年7月に苹果支付(Apple Pay/アップルペイ)と提携し、スマホからギフトカードを贈れる機能をメンバー向けに開始していたのですが、中国国内でなかなか浸透しない苹果支付(Apple Pay/アップルペイ)に見切りをつけたかのように微信支付(WeChat Pay)に軸足を移したのです。
阿里巴巴(Alibaba/アリババ)も虎視眈々
中国国内のモバイル決済の競争は、今も阿里巴巴(Alibaba/アリババ)陣営の支付宝(Alipay/アリペイ)と微信支付(WeChat Pay)との間で激しく争われています。スターバックスが今回の提携のパートナーとして支付宝(Alipay/アリペイ)ではなく微信支付(WeChat Pay)を選んだのは、「ソーシャル」に目をつけたからだと言われています。チャット機能をベースにした微信(WeChat)のSNSとしての機能が顧客の活性化やリピート率の向上に有効であると判断した結果、提携の相手を微信支付(WeChat Pay)にしたというのが大方の見方です。今回のスターバックスと微信支付(WeChat Pay)との提携を、阿里巴巴(Alibaba/アリババ)側はどのように見ているかというと、「あくまでも順序の問題であり、両者が同時に提携を開始することはお互いのためにならない」というコメントを出しているようで、ここから支付宝(Alipay/アリペイ)とスターバックスとの提携も水面下では進められていることが窺えます。実際、スターバックスと阿里巴巴(Alibaba/アリババ)との関係は良好で、中国国内に2400店以上あるスターバックスでは基本的に微信支付(WeChat Pay)での支払いが可能なのですが、数少ない例外として阿里巴巴(Alibaba/アリババ)の本拠地である杭州の西渓園エリア内に出店しているスターバックスでは支付宝(Alipay/アリペイ)での支払いしか受け付けないそうです。また、2017年1月に行われたスターバックスの従業員のイベントに馬雲氏がゲストとして現われて講演を行い、「創業時にはスターバックスは大きな目標であった」と述べたというニュースも伝わっています。ちなみに馬雲氏はコーヒーが嫌いなことで知られています。
ソーシャルギフトサービス時代の幕開け?
今回の微信支付(WeChat Pay)とスターバックスとの提携は一つの時代を切り開いたものと捉えられています。今、日本でも急成長を続けているソーシャルギフトサービス時代の幕開けが中国にも到来したというのです。中国人にとって「贈答」は一種の文化とも言える行為ですので、それがスマホで手軽に出来るようになれば、個人間の贈答から法人による利用へと一挙に広がるのではないでしょうか。今後はカフェやバーなどの外食や、劇場や映画のチケット、カラオケ、ゴルフ、エステなどのサービスをソーシャルギフトとして贈りあうことが急速に広まるのではないでしょうか。今回、スターバックスは、新しいソーシャルギフトを販促用に利用するパートナーの募集を呼びかけています。自社で取り扱う商品がギフトになりにくくても他社の商品をギフトとして活用することで、中国でのソーシャルギフトサービスの裾野は果てしなく広がるでしょう。今回のSNSとソーシャルギフトの融合は、O2O(Online to Offline)の成功のカギといえる、「オンラインでの来店者とオフラインの店頭でいかに繋がるか」という課題に対して示された一つのソリューションとも言えそうです。今後中国でソーシャルギフトサービスがどのように進展するのか、阿里巴巴(Alibaba/アリババ)もソーシャルギフトサービスを始めるのか?いずれも気になるところです。