ビットコインと中国の関係を解説
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ビットコインの乱高下の背景には中国が関係?
インターネット上の仮想通貨「ビットコイン」の価格がこのところ乱高下を見せています。米ドルとのレートBTC/USDで、2017年1月5日にはビットコインが1100ドルと最高値を更新したのですがその日の夜から翌日6日かけて急落し、約2週間の間に30%も急落するパニック売りが発生しました。しかし1月の後半以降はまた上昇に転じ、3月2日にはとうとう史上初めて金1オンスの価格を上回り、本稿執筆時点の3月8日現在では1200ドル付近にあります。このようなビットコインの乱高下には中国が密接に結びついているといわれています。中国とビットコインとの関係を詳しく見ていきたいと思います。
ビットコインは自己責任で
中国に初めてビットコインが登場したのは2011年6月だと言われています。淘宝(タオバオ)にビットコインを扱うショップが出店したのが最初だそうです。その後2013年に入りビットコインのブームが中国で巻き起こりました。2013年6月に中国初のビットコインの取引所である比特幣中国(BTC China)が開設されました。2013年9月までは中国内の取引所は取引手数料を徴収していたのですが、取引手数料を無料にしたことで取引量は急増しました。2013年8月に人民元の切り下げが行われたことで、今後さらに人民元安が進むのではないかという不安から安全資産としてビットコインが選ばれ、その取引額はさらに増えていきました。ビットコインに両替してから海外で不動産や証券に投資する人も増えていったのです。2013年12月にはそれまでビットコインに対して静観の態度を示していた中国人民銀行が、「ビットコインは正規の通貨ではない。個人が自己責任でそれに参与するのは自由であって、中国人民銀行としてはこれを取り締まらないが、貨幣市場での流通には利用できないとし、金融機関がビットコインを取引することを禁止し、特に市場操作やマネーロンダリングに対しては厳しく監視する」と発表しここに中国当局のビットコインに対する態度が明確に打ち出されたわけです。この直後にはビットコインは一時暴落したのですが、その後も中国でのビットコインの取引額は増加していきました。
資本流出と元安の負のスパイラル
中国の人民元が2015年8月に切り下げられてから人民元安傾向が続いています。人民元安の主要な要因は中国からの相次ぐ資本流出とアメリカのトランプ政権の発足とであると言われています。人民元安は中国にとっては輸出競争力の改善には追い風になり必ずしもマイナス要因とはいえないのですが、中国当局が懸念しているのは、人民元安と資本流出の負のスパイラルです。2014年以降、資本・金融収支が赤字基調に転じたことに続き、2015年以降は外貨準備高も減り続けています。資本流出が元安を予感させ、元安への予感がより一層の資本流出を誘発するという悪循環を生みだしているのです。そういった状況で手持ちの人民元を目減りさせたくないと考えた人たちが安全資産として目をつけたのがビットコインです。中国の富裕層の資金がビットコイン市場に流入し、その結果中国でのビットコインの取引額が世界の9割を占めるようになりました。
ビットコイン市場が過熱
中国政府は資本流出に歯止めをかけるためにいろいろな規制をおこなっています。国内企業の海外送金、M&A(合併・買収)などへの規制を強化しているほか、個人の外貨両替にも年間両替額を5万ドルまでと制限しています。さらに2017年1月からは外貨購入を希望する個人に対しては銀行窓口で「海外で不動産や証券、保険を購入してはならない」と明記された申請書の提出も義務づけたそうです。このように為替取引に制限がこれまで以上に厳格になり、この動きがさらに進むのではないかという懸念から、ビットコイン取引に資金が流入し市場が過熱気味になっていました。
ビットコイン乱高下の背後に人民銀行
中国では2017年1月から中国人民銀行によるビットコイン監視のあわただしい動きがみられました。1月6日には中国人民銀行が中国の3大ビットコイン取引所に調査開始を通知し、1月11日には3取引所に調査が行われ、その直後3取引所では信用取引を停止しました。これが1月5日から6日にかけての大暴落の原因だと言われています。1月18日には調査結果が発表され、規定違反や資金洗浄への対応に不備があると指摘を受けました。さらに2月8日には調査対象を9取引所に拡大し、これら9取引所に資金洗浄対策の強化を要求しました。そして2月9日に中国人民銀行は、今後規定違反が厳重だった場合には取締ると警告しました。こうした動きはビットコイン価格や取引量にも大きく影響し、2月9日には15分ほどの間に10%もの値下がりがありました。一部ではこれで中国人のビットコイン離れにつながるという予想も見られました。しかしその後はビットコインの価格は上昇し続けています。
取引所への立ち入り検査の目的は?
今回の中国人民銀行によるビットコインの各取引所への立ち入り検査は、外貨取引管理やマネーロンダリング、送金・決済関連などの業務に違法性がないか調査することが主眼だと声明にはあるのですが、過熱しすぎる市場の混乱を警戒し、ビットコイン市場を落ち着かせる目的が狙いだったのではないでしょうか?各取引所への立ち入り検査がビットコインの売りにつながることは想定内だったはずです。中国人民銀行が2016年 1 月に行った「仮想通貨に関する検討会」では、「中国人民銀行による仮想通貨の発行は法定通貨の発行・流通にかかるコストを減らし、経済活動の利便性や透明性を向上させ、資金洗浄や脱税といった違法行為を減らし、中央銀行の貨幣供給等に対するコントロール力を高める」といったメリットがあると指摘しています。将来中国人民銀行による仮想通貨の発行が検討されていることも注目すべきですが、ビットコインつまり仮想通貨はマネーロンダリングに有効だと考えていることは重要なポイントです。ビットコインがあるからマネーロンダリングが行われるのではなく、管理が十分ではないからいろいろな不都合が生じると当局は考えていると見てもよいのではないでしょうか。
ビットコインは実はほとんどが中国産
ビットコインは取引所で通貨と交換するほかにもマイニングによって新たに取得できます。専用のプログラムを強力なコンピュータ上で走らせて地中の「金」を採掘するようにして取り出すのですが、少しでも採掘効率を上げようとするとコンピュータの処理速度を上げる必要があります。コンピュータを動作させ冷却を行うのに電力がかかるのですが、土地代と電気料金の安い中国にこのマイニングを行うチームが集中していて、今では世界の7割を占めるとも言われています。中国で生み出されたビットコインを人民元を使って購入しても人民元の流出にはならないという見方もあります。自国で生み出されたものの価値を下げるようなことが果たして得になるのか?という考え方です。仮に中国当局がビットコイン自体を資本流出の元凶だと考えるならば、これらのマイニングもなんらかの規制を受けているはずです。中国当局としてはビットコインを使っていろいろな規制を迂回しても人民元の実質的な流出にはつながらず、これを管理して育てるほうが得策だと考えているのかもしれません。「ビットコインを無くすよりもいかに制御するかが重要である」という発言が中国銀行の前総裁であり中国ブロックチェーン研究所所長である李礼輝氏からなされたと伝えられています。取引額も新たに生み出されるビットコインも中国一国に集中してしまっているので、ビットコインの相場や取引額は中国の金融政策や為替操作の影響をまともに受けることになるのです。
やがて来る仮想通貨の時代?
中国人民銀行では2014年から仮想通貨開発プロジェクトに乗りだしていて、2016年12月には中国で初の概念実証が行われ、これには中国工商銀行、中国銀行のほか、腾讯(Tencent/テンセント)が設立した中国初の民営銀行、深圳前海微衆銀行(WeBank)なども参加したと報道されています。銀行の窓口やATMから下ろした現金にも偽札が混じっているそんな中国の、究極の偽札対策としても仮想通貨プロジェクトが期待されていると言われています。中国独自の仮想通貨を発行するのか、ビットコインをコントロール下に置くのか、その方向性はまだ見えてきませんが、いずれにしろ将来は仮想通貨を通じて国内の資産の動きを管理していくことになるのではないでしょうか。
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