民間企業を食い物にする中国メディア
マスメディアの収入源には大きく分けて、情報の発信側から受け取る広告料と、受け手に課金する料金(受信料、購読料など)があり、新聞や雑誌はフリーペーパーを除いて双方に課金し、書籍は通常書籍代として受け手からのみ徴収します。そして日本の民間放送メディアは広告収入で運営されていますが、いま中国では、メディアが企業を食い物にしている実態が浮き彫りになっています。
中国メディアの実態
ある日本のメディアが、中国広東省に本部を置くメーカーに取材を申し込んだ際に、「取材と言いますが、本当はお金を取るんですよね」という言葉が返ってきたといいます。そして、それを否定すると今度は、絶対に金銭を要求しないという念書にサインを求められたとのこと。
そしてその理由を尋ねると、「CCTV(中国国営中央テレビ)ですら、お金を要求してきたからメディアは信用できない」ということだったそうです。中国では近年、メディアが企業を食い物にする姿勢が顕わになっているようです。
お金を要求する取材陣
先の企業の話によると、自社開発した機器がヒットして急成長を遂げたことで、様々なメディアから取材依頼が殺到しましたが、なかには記事掲載の見返りとして金銭を求める記者がいたといいます。
CCTVの記者を名乗る人物が「注目企業を取り上げる番組制作」として取材を申し込んできた際に、中国で最も有名なメディアで放送されれば知名度は一気に上がるため、そんな思惑から取材に協力したところ、この記者は放送直前に「広告料」を要求してきたそうで、同社が拒否した結果、放送はお蔵入りになったそうです。
複数の元CCTV記者に確認したところ、「記者は通常、ニュース以外の番組制作にあたることはなく、金銭の要求は禁止されている」とのことですが、それでも、10年以上CCTVに在籍した元記者は「番組の下請け会社の多くがCCTVの名前をかたって金を無心していたが、一部のCCTV記者もこっそりやっていた」と証言しています。
インターネットによる経営圧迫
また、別のCCTV元記者で現在は大手企業で中国メディアの広報担当を務める男性は「以前からあったが、ここ最近は特にひどい」といい、その要因はメディアの経営不振だとのこと。今はインターネットメディアが台頭して、若者を中心に新聞やテレビをあまり見なくなったことから、旧来メディアは広告収入の減少に喘いでおり、テレビの広告収入総額は既にネットに倍以上の差をつけられ、新聞は2016年までの5年間で34紙が廃刊したといいます。
“人民日報”など国の傘下にあるメディアは政府から一定の補助金を得てやり繰りしていますが、財政が厳しい地方政府系の新聞は特に苦しいそうで、遼寧省大連の地元紙で働く30代男性の月収は1000元(約1万7000円)余りで、大卒者の平均月収(5000元)をはるかに下回り、妻は出稼ぎを余儀なくされたといい、また、国営の大手新聞社に勤める別の男性は「給料は上がらないのに、新聞への記事執筆だけでなく、ネットへの速報、現場からの動画配信などと、どんどん仕事が増える」と嘆き、記者としてCCTVに15年勤めて昨年退職した北京市に住む40代の男性は、「年々、達成感はなくなっていたし、おまけに給料も3分の1に下がっていた」と語っています。
民間企業を悩ます“自媒体”
このような背景からメディアで働く人の給料が伸びず、生活維持には別の収入源を得るしかなく、そこで、中国の経済成長とともに台頭してきた民間企業が“自媒体”(セルフメディア)のターゲットになっているようです。企業を悩ますのは旧来メディアだけではなく、急成長するネットメディアも間接的に企業にたかり始めているといいます。
中国の不動産大手「大連万達集団」の関係者は「“自媒体”は本当に頭の痛い問題だ、彼らは確認もせずに好き勝手に書く」と、うんざりした様子で話しているそうです。同社は海外企業の買収・合併を進めてきましたが、昨年の「中国当局による海外投資規制」を受けて、王健林会長に絡む醜聞がネット上に拡散するようになりました。
昨年8月25日に「王健林会長と家族が天津の空港からロンドンに出発しようとしていたところを止められた」と、複数の中国メディアが報じました。その中心となるのが、“自媒体”と呼ばれる「個人がSNSで記事を発信する自称メディア」で、“自媒体”はニュースサイトなどに転載されれば、閲覧数に応じて広告料を得られるのです。したがって、内容は中国人の耳目を集めやすいスクープものになりやすく、またガセネタも多いのです。
なぜ民間企業がターゲットなのか
中国では政府や共産党に絡む記事を勝手に書けば、すぐに処罰されます。こういった中国特有の事情で民間企業が狙われやすくなっているのです。実際に、先のアジア一の大富豪にもなった「大連万達集団の王健林会長」や「アリババ集団の馬雲会長」など、著名企業家のフェイクニュースが毎日のように垂れ流しされているのです。
その様な背景から企業は、記者会見のたびに「車馬費(お車代)」として記者に金銭を渡すのが習慣となってしまい、かつては数元程度と本来の交通費に近かったのが、現在では200~1,000元と高騰しており、記者にとっては収入の一部となり、企業にとっては「口止め料」の意味合いが強まっているのです。すなわち、メディアに振り回される企業の防衛策は、結局はカネという「口止め料」なのです。
習近平指導部は金銭の見返りに便宜を求めるやりかたを「反腐敗運動」の名の下に一斉に取り締まっていますが、しかし、メディアに絡む悪しき慣習は見過ごしているのです。「メディアが企業にたかり、企業はメディアを飼いならす」この構図は当面変わることはなさそうです。
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