中国での配車アプリをめぐる仁義なき戦いの先にみえるものは
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Google Mapsに配車アプリ機能されたが中国への影響は?
Google は2017年1月13日、Google Mapsに配車アプリUberのアプリが持っていた機能を組みこんだ新版をアップデートしました。Uber Technologiesは2009年にサンフランシスコで設立されたベンチャー企業で、スマホアプリを利用してタクシーを呼ぶという単純なサービスなのですが、瞬く間に利用者数が拡大し、日本など世界58の国と地域の300もの都市で展開するまでになっています。ITを活用し、アプリに行き先を入力すれば、車両の到着時間や料金の目安が表示され、決済機能も組み込まれています。これまではUberのアプリを起動しておいて、Google Maps上で表示させる仕組みだったのですが、今回の新版ではGoogle Maps内に車両の予約、周辺のUberの車両の運行状況をリアルタイムで表示する機能、運転手とのコンタクト、料金の決済機能などが組み込まれました。UberのほかにもLyft、Uber、Gettなどの主要な配車サービス企業の機能が組み込まれているのでユーザーは選択が可能です。「中国Webマーケティングラボ」でも紹介していますが、中国国内ではGoogle Mapsは利用できないので、この機能を中国国内のユーザーが利用する機会はないのですが、中国で利用されている配車アプリと比べると直感的で高いユーザー体験をもたらすアプリなので、中国の配車アプリにも影響を与えることが予想されます。中国では、配車アプリを巡って熾烈な戦いが繰り広げられてきています。この戦いの先にあるものが何かを考えていきたいと思います。
配車アプリの争いはBATの代理戦争だった
中国で配車アプリがスタートしたのは2012年です。当初はいろいろなアプリが乱立していましたが、最終的には腾讯(Tencent/テンセント)が出資する「滴滴打車」と阿里巴巴(Alibaba)が出資する「快的打車」の2強がシェア争いを展開しました。この2強が、ユーザーへのキャッシュバックなどによって消耗戦に近いような熾烈なシェア争いをしていたのです。この争いは腾讯(Tencent/テンセント)と阿里巴巴(Alibaba)との間の代理戦争でもあったのです。そこに割り込んできたのがUberでした。2013年後半にはUberが中国に上陸し、上海からサービスを開始しました。中国3大IT企業の「BAT」の残る1つ、検索最大手の百度(Baidu /バイドゥ)は、Uberに出資を行い、中国での展開をバックアップしていたのです。さらに、快的打車には日本のソフトバンクが出資し、滴滴打車にはシンガポールの国家ファンドが出資を行っていました。そんな三国志か軍閥が割拠する時代を思わせる争いの中で、滴滴打車と快的打車がUberを迎え撃つために選択した対抗策が、両社の合併でした。2015年のバレンタインデーに両社は合併し、2015年9月からは新たな社名「滴滴出行」でスタートし現在に至っています。
争いはさらにヒートアップ
この結果、今度は滴滴出行とUberとの争いが繰り広げられるようになり、両社は大量の資金を投入してユーザーと運転手の囲い込みを行いました。採算を度外視して、ユーザーにはクーポンを配布し、運転手にはリベートを支払ってシェアを拡大しようとしたのです。配車アプリのビジネスは当初はタクシーと利用者とをマッチングさせるサービスとして、ユーザーはもちろんのことタクシーの運転手にも非常に歓迎されたのですが、一般ユーザーのマイカーを使ったライドシェアサービスの提供が開始されると、タクシーの需要の一部を奪うようになり、リベートによって多くの運転手が参入しました。運転手もユーザーも滴滴出行とUberの二つのアプリを使い、クーポン額が高いほうにユーザーが流れ、運転手も条件の良い方に流れるという状況が生まれてしまいました、運転手間の競争が激しくなり、運転手の収入が減ってしまい、モバイル配車アプリに対しタクシー運転手や業界は反発し、運転手の抗議行動が起こったりしました。また、上海の大手タクシー会社が当局に対し、適正競争が阻害されているとして、これらの事業者の実態を調査するよう要求を提出しています。これを受けて当局ではこれまでグレーゾーンだった、マイカーを利用したライドシェアサービスに対して規制を行うようになりました。2016年7月に、同年11月からマイカーを使ったライドシェアは合法化される一方で、採算割れとなるようなクーポンの配布が禁止されることが発表されたのです。
中国国内では一旦手打ち?
こうした背景もあり、後発のUberとしては中国でシェアを獲得できる見込みも少なく、これ以上赤字を垂れ流し続けるよりは、この競争に終止符を打つことを選択しました。2016年8月、Uberの中国事業部門とライバルの滴滴出行とが合併されることになりました。この合併は相互に出資する形をとっていて、 この結果、滴滴出行は百度(Baidu /バイドゥ)、阿里巴巴(Alibaba)および腾讯(Tencent/テンセント)の3強(BAT)が共同出資する唯一の企業になりました。滴滴出行とUberとの競争は中国国外にその舞台を移しています。2017年1月にはブラジルでUberに競合する配車アプリ事業者の「99」に出資し、今後は「99」に技術、製品開発、運営、ビジネスプランを含めた助言や支援を行うほか、データを活用したアルゴリズム解析も共有すると発表しています。合併前にはApple社が滴滴出行に10億ドルの出資をしています。ソフトバンクも滴滴出行と共同で東南アジアではシェアトップの配車アプリ「Grab」に対して7.5億ドルの出資を行っています。ここからは、IT企業はなぜ配車アプリに積極的に投資をするのを考えていきます。
配車アプリから得らるたデータに意味がある
配車アプリにはタクシーと乗客とをマッチングさせる仕組みと、車を運転している人と近辺で移動したい人とをリアルタイムでマッチングさせる仕組みとがあるのですが、今後大きな意味を持ってくるのは、自家用車の相乗りのためのマッチングを行うライドシェアリングためのサービスです。そして、究極のライドシェアリングは誰かの車に相乗りするのではなく、社会的な資産である自動運転の車によって実現されるのだとも言われています。次世代の自動車技術である自動運転システムでは、ライドシェアリングで得られたビッグデータが不可欠なので、ライドシェアリングの分野での優位性がそのまま自動車技術の分野に引き継がれると予測されています。また、ライドシェアリングで得られたデータは、人の行動に直接的に情報や広告を与えたり、広告の効果測定をその後の人の行動まで含めてフォローできるようになるので、非常に高い価値を持つと言われています。
水面下では電子地図の争い
電子地図は配車アプリにはもちろん、自動運転には欠かせない技術です。GoogleやApple社が電子地図分野での優位な地位を築くためにあらゆる手段を講じているのが今の配車アプリを巡る動きです。Googleは中国市場への復帰を狙っているといわれています。中国でも同様に、百度(Baidu /バイドゥ)の百度地図、阿里巴巴(Alibaba)の高徳地図、腾讯(Tencent/テンセント)の腾讯地図というようにBATはそれぞれ独自の地図技術を開発し、しのぎを削っています。物流管理、インフラ開発、都市計画、軍事、リスク管理、ナビゲーション、ヘルスケアなどの分野での利用により、世界のデジタル地図市場は2020年までに40億ドル以上の規模になるとの予測もあります。
シェアリングエコノミーの成長を目指す?
大気汚染が深刻化している中国では、循環型・低炭素社会への転換政策の一環として、EVなどの新エネルギー車の普及を推進しています。中国政府は、2020年までにEVの累計販売台数を500万台にすることを目標に掲げています。上海市内では「EVCARD」というEV(電気自動車)専門のカーシェアリングサービスが始められています。これは、上海国際汽車城集団と同済大学が共同推進しているプロジェクトで、上海市内に500箇所のレンタルスポットが設置されていて、利用料金は1分あたり0.5元からと、一般のレンタカーと比べて格安で利便性も高いので利用者数も伸びているようです。デジタル産業革命によって、今後30年から40年をかけて、製品のスマート化が進み、所有形態が私有から共有へ転換し、資源の循環・再生が行われ、共有型の経済システムが形成されていくことが予想されています。多くの人口を抱え、社会主義を目指している中国にとって、まさに目指すべき社会システムであり、中国政府もシェアリングエコノミーの成長を促す政策を打ち出しています。最近、配車アプリやカーシェアリングの話題が注目を集め、報道も相次いでいます。これらの話題の向こう側には、中国がこれから歩もうとするシェアリングエコノミーへ向けた道筋があるのです。