中国“青空政策”の裏で異常事態
中国の北京では半年前には空が見えぬほどのスモッグ(PM2.5)で街行く人は皆マスクをしていました。ところが今は冬なのに青空が見える日が多くなっています。しかし、その裏では異常事態が起こっていました。数十年に及ぶ抑制なき成長によって破壊された環境を回復させようと、政府が導入した前例のない取り組みが、裏目に出たのです。
中国の大気汚染
中国では昨年まで大気汚染が深刻化していました。特に偏西風の吹く時期は、日本や韓国、北朝鮮にも被害が及びました。中国ではスマホ向けに、都市ごとに大気の質を示すAQI(大気質指数)が表示されるアプリが用意されており、朝起きると天気予報と共に大気汚染のチェックが欠かせませんでした。
<2013年12月1日上海の表示例>
AQIは大気汚染の程度を0から500までの数値で指標化しており、AQIが201~300の段階を重度汚染と定義しており紫色が表示されます。心臓や肺疾患の患者に加え老人や子供など高リスクな人に対しては「屋外活動を中止すべき」とし、健康な大人に対しても「屋外活動を控えるべき」と注意を喚起します。
中国の大気汚染対策
中国政府“環境保護部”は、2016年7月1日に「京津冀大気汚染防治強化措施(2016-2017年)」(北京市・天津市・河北省大気汚染防止措置2016-2017年)を発表しており、昨年の8月には10月から今年の3月にかけて、国内28都市で大気汚染物質「PM2.5」の平均濃度を前年比で15%以上減らす方針を示しました。
10月の中国共産党大会では、習近平国家主席が「青空を守る戦いに勝利する」と宣言して以降、大気は劇的に改善しています。10月以降は石炭使用全面禁止の動きが各地方にも広がり、政府の発表では2017年10月~12月の北京ではPM2.5が1年前に比べ約7割以下となり、その北京を含む28の地域で大気汚染が改善しています。
“青空政策”の強行が裏目に
しかし、石炭燃焼による大気汚染を防止するために中国政府が発した「禁煤令(石炭禁止令)」に伴い、「煤改気(石炭を天然ガスに換える)」計画では、民家や工場向けに天然ガスのパイプラインやボイラーが設置されたものの、燃料を運び備蓄するインフラ整備が不十分だったためにガスの供給が滞っていることにくわえ、多数の地域で改造工事が遅延しており、学校のみならず一般の住宅も暖房ボイラー等が使えません。
さらには代替エネルギーの天然ガス不足により、天然ガスの価格は2倍以上に高騰して生活に影響が出ているほか、燃料コストが嵩むあまり工場を停止する産業も出てきて中国経済にも悪影響が出かねない事態となっているのです。
ガス不足が最も目に見える形で現れているのはガソリンスタンドで、液化天然ガスで走るタクシーが常に40台ほど並んでいます。北京から車で南西に2時間の距離にある町“保定”のタクシー運転手は、ガスを入手するため毎日最低3時間は並ぶと言い、 高騰するガス価格と、失われた稼働時間を考慮すると、毎月1,000元の収入減を招いていると言います。
また、ある村では家の外壁には天然ガスの配管が施されているものの、家の中へ引き込むガス管が見当たりません。ガス設備の取り付けが未完成のままで「全面禁煤令」は断行されたのです。冬季の暖房時期を迎えても工事は進まず、村の住民は暖をとるためには禁止されている石炭を燃やすしかなく、政府も已む無くそのような村には「暖をとることに限定した石炭使用」を許可しました。
また、瓦を焼いていたある陶器工場が天然ガスの高騰で業務停止に追い込まれ300人もが職を失ったといい、「青空の下で生活できるのは良いけれど、政府が仕事を紹介してくれればなお良い」と語る村人の落胆ぶりが印象的でした。
習近平政権の政治スタイル
2期目に入った習近平政権は、「新時代の到来」を内外に印象付けるために、北京の大気汚染を一掃する決意を固め、そのために各地方政府を動かして北京周辺地域における「全面禁煤」を断行したのです。
習政権の意向を受けた地方政府の命令ひとつで、ガス設備の取り付けを政府プロジェクトとして進め、それも各飲食店や各家庭による自由選択ではなく政府による一方的な強制であり、そのやり方はあまりにも強引で乱暴なもので、しかも設備工事はまだ行き届いていないのです。
政権がトップダウンで政策目標を決め、その達成のためには、民衆の権利と民衆の生活を一切無視した行政手段をもって物事を強引に進めていくという、まさに強権主義的なやり方こそが、今後の習政権の政治スタイルなのでしょうか。
この一件から、2期目の習近平政権がどのような政治を目指していくのか、はっきりと見えてきたようにも思えます。習国家主席の主張する「新時代」は、まさに毛沢東時代の晩期と同様な「暗黒時代」を彷彿とさせるものであり、毛沢東暗黒時代の再来を予感させる個人独裁体制にも見えますが、そうと決め付けるにはまだ早いでしょうか、今後の政権運営に注目です。
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