中国式白タク「境外包車」 vs 「日本のお上」
2017年1月、北海道は札幌市の繁華街“ススキノ”において無許可で自家用車に客を乗せるいわゆる「白タク」を営業したとして、客を手配していた男と運転手など合わせて6人が道路運送法違反の疑いで逮捕されました。「お上」は白タクにもきちんと目を光らせていたのです。ところが、9月25日 “日本各地で暗躍する中国版白タク「皇包車」の実態”というブログがネットを賑わせました、これによると日本の各地では中国式白タクが横行しているのに「お上」は知らなかったとのこと。
※「白タク」とは:運送事業用自動車は緑色のナンバープレートですが、無資格(普通の白色ナンバー)でのタクシーサービスを行うことで日本では違法行為です。
中国の「境外包車」サービス
中国では2015年頃から「境外包車 (海外車チャーター) 」と呼ばれるサービスが成長を続けています。ライドシェア(一般市民によるタクシーサービス提供)の手法で運営されており、シェアリングエコノミーの一種です。現在、中国には「皇包車」「走着旅行」「唐人接」「蜜柚旅行」「丸子旅行」「易途8」といった多くのサービスがありますが、中でも「皇包車(HI GUIDES)」が海外展開を積極的に進めており世界80カ国の都市で展開されているといわれ、日本にも上陸しているのです。日本の東京におけるドライバー登録者数は8月末で1,865人に達しているとのことです。中国人観光客にとってこの境外包車は、スマホで簡単に予約できて質の高いサービスが受けられうえに、ドライバーとは中国語でのコミュニケーションが可能で、チャーター利用の際にはガイド兼通訳の仕事もこなしてくれるため中国人観光客にとっては極めて利便性の高いサービスなのです。しかしこれらのサービスは、日本ではいわゆる「白タク」であり違法行為になるのです。
深夜の空港に出迎えに来た男
冒頭のブログ“日本各地で暗躍する中国版白タク「皇包車」の実態”は筆者の実体験によるもので、ご自身も「皇包車」を利用してみたり、各方面への取材もされており、次のような前置きで始まっています。
「右肩上がりに伸びる訪日中国人数。さぞ日本人がその恩恵を受けていると思いきや、中国人だけが儲かる中国人のためのシェアリングエコノミーが拡大している。政府は、その実態や規模を全く把握できていない――。」「7月某日午前1時の羽田空港国際線ターミナル。中国の航空会社で上海から到着した中国人旅客が到着ゲートからあふれ出てきた。到着ロビーでは、男性が中国人の名前を記したカードを掲げている。彼は到着客の女性グループと落ち合うと、便宜的なあいさつを交わし、駐車場に消えていった─。」
お上は本当になにも知らぬのか
このブログで気になるのが、次の一節です。
『日本では散発的な報道があるぐらいで一般的にほとんど知られていない。タクシー業界や空港、あるいは警察など監督官庁はこの問題を知っているのだろうか。取材を進めると驚くべき事実が浮かび上がった。タクシーの業界団体、空港、警察、国土交通省と取材を進めても、知らぬ存ぜぬとの答えが返ってくるばかり。羽田空港を縄張りとしているタクシー運転手に話を聞くと、「えっ、そんな白タクがあるんですか」と目を白黒させた。成田空港は「顧客からの投書があったが、実態は承知していない」との答え。羽田空港国際線ターミナルでは「確認していない。我々のターミナルは狭く、そうしたサービスを行う余地などないのでは・・・」との回答があった。ほかならぬ問い合わせた私自身が先日利用したばかりなのだが。現場は理解していなくともお上はわかっているはず、と警視庁、国土交通省に問い合わせてみたが、そうした実態は把握していないとの答えが返ってくるばかりだった。』
中国式白タクの摘発は始まるか
前記ブログ内の「散発的な報道があるぐらいで」とは5月18日の日本テレビの報道のことを指しているのでしょうか。5月18日、中国のSNS「微信(WeChat)」上に、ひとりの日本に住む中国人と思われる人物から、中国式白タクの利用に注意を促すメッセージが発せられたそうです。メッセージの中身は、その日夕方5時50分過ぎの日本テレビの情報番組「エブリィ」で放映されたニュースに触れたもので「成田空港や羽田空港に急増している中国の配車アプリ皇包車を使った白タクが今後摘発の対象になる」と言っており、さらに「中国で広く普及している同アプリによる配車サービスは日本では合法ではない」「万一事故に遭ったときに補償がないことを知るべきだ」と呼びかけており、そのメッセージにはニュース映像のカットが2点載っていて、「白タクは普通の自家用車で違法営業」との文面が見られます。中国式白タクが問題になっていることは、関係者の間では数年前から広く知られており、NHKの「クローズアップ現代」でも2016年10月下旬に、中国人観光客をめぐるさまざまな問題のひとつとして中国式白タクに触れています。横行する中国式白タク問題にいちばん頭を痛めているのが沖縄県で、今月に入っても沖縄のメディアはこの問題を繰り返し報じています。はたして日本テレビの報道のように、今後成田空港や羽田空港での白タク摘発は始まるのでしょうか。
毎日新聞「横行も検挙困難」より
2017年8月27日の毎日新聞記事の一部を短縮して以下に紹介します。
旅行熱が続く中国からの観光客を当て込んだ「中国式白タク」が、成田空港や関西国際空港など日本各地の空港で横行している。「中国人による送迎・ガイド」をうたい、中国の業者に登録した在日中国人が自家用車を運転。集客から支払いまでスマートフォン上で完結するため、取り締まりを免れるケースが大半だ。中国式白タクは、運営する中国業者のスマホアプリで客が出発地と目的地、利用時刻を選べば、業者から日本にいる運転手に手配が届く仕組みだ。中国の大手業者のアプリには東京1800人、大阪1200人、北海道280人など、日本各地で数千人の在日中国人らが運転手として登録している。また、日本での売り上げを中国で計上する業者も多いとみられ、日本で納税されることはない。近畿運輸局などは今年2度、対策会議を開き、成田空港会社も「警察との情報共有を進めている」と明らかにした。警察の職務質問に運転手が「友人を乗せている」と答えれば、それ以上の追及は困難だ。近畿運輸局は「実態把握が難しい」と指摘している。
中国式白タクが横行する背景には
この中国式白タクが横行する背景には中国人観光客が団体ツアー旅行から個人旅行へシフトしていることがあげられるのではないでしょうか。中国ではツアー旅行に対する人気が低下しているのです。それはツアー旅行を手配する「ランドオペレーター」は各地の免税店からのキックバックを主な収入源としているために、旅行といっても免税店を回るばかりでろくに観光もできないことが多いというのです。そこで中国で起きているのが個人旅行ブームなのです。日本を訪れる中国人の数も2014年の240万人から2016年には637万人と約2.5倍に急増していますが、昨年には中国人への個人観光ビザの発給数が団体観光ビザを上回っているのです。また沖縄での背景には、「急増する外国人観光客への多言語対応など、県内の受け入れ態勢の不備が白タクの横行を招いている」との側面もあるようです。
中国人の爆買いツアーはもう過去のものになり、地方の都市や日本らしい文化の体験を求める個人ツアーが人気となっている今、今回取り上げた「中国式白タク」のほかにも、「無資格悪質ガイド」「不法民泊」などといった「日本の法の不備」をついて不当に利益を上げる闇業者の存在もあります。しかしこれらの摘発が難しく手を焼いているのが今の日本の実態です。
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