中国決済事情「QR決済」の次は「顔認証決済」
ケンタッキーフライドチキン(KFC)やピザハット(Pizza Hut)、タコベル(Taco Bell)などを運営する米ファーストフードチェーン大手「ヤム・ブランズ」の中国事業部門を分社化した「ヤム・チャイナ(本社:上海)」が「顔認証決済」を導入しました。支付宝(Alipay)は杭州ケンタッキー・フライドチキンKPRO店に実店舗では初の「顔認証決済」を導入したと発表しており、今や「顔認証システム」はあらゆる場面に広がりをみせています。
支払いは笑顔で「顔認証決済」
ドイツ・ハノーバーで行われた電子博覧会でアリババのジャック・マー会長がアンゲラ・メルケル独首相に顔認証決済「Smile to Pay」を披露したのが2年前でした。そしてこの度、この技術が中国浙江省杭州市で実用化されました。笑顔ひとつで支払いが完了するアリペイによる顔認証決済が、杭州ケンタッキー・フライドチキンKPRO店に導入されたのです。商用で導入されるのは世界初の試みで、店の入り口に3台の注文機が設置されており、注文を済ませると支払い画面に切り替わります。「アリペイ顔認証決済」を選択すると顔認証画面が現れて1~2秒でスキャンした後にモバイル決済のできる携帯電話番号下4ケタを入力すれば支払いが完了します。KPROがこのシステムの導入を発表すると、流行に敏感な多くの若者が来店し、さらにそれを上回って多かったのが視察や勉強のために訪れた同業者でした。国内外のメディアからも注目を集め、取材要請が殺到しているといいます。
顔認証決済の仕組み
顔認証決済は消費者の新たな選択肢となりました。財布を忘れても携帯電話の電源が切れても、笑顔ひとつで支払いが完了するのです。この「スマイル・トゥー・ペイ」システムには3D赤外線カメラが搭載されており、顔認証のほかにもさまざまな方法で本人確認を行い、「写真に写った人の顔ではないか」とか「ビデオあるいはその他の方法で偽造されたものではないか」などを判断します。システムが顔を識別した後に登録した携帯電話番号の下4ケタを入力して決済完了というもので、識別精度やセキュリティはかなり高度なレベルにあるそうです。アリババ傘下のアントファイナンシャル個体識別技術の責任者、陳継東氏は「アリペイの顔認証の正確率は肉眼をはるかに上回っている。『顔認証決済』がやっと実験室の外に出る日が来た。この新しい技術が1日も早く普及し、もっと多くの人に安全で便利なサービスを体験してもらいたい」と話しています。
京東(JD.com)も実証実験
中国ネットショップ“京東(JD.com)”も顔認証決済をスタートさせており、中国の決済システムはQRコードから顔認証へと広がりをみせています。京東(JD.com)は「2017年年末までに実店舗を全国で300店をオープンさせる」と発表しており、すでに展開されている実店舗「京東之家」では「顔認証決済」の実証実験がスタートしています。店舗のQRコードを「京東支付アプリ」で読み取り、顔面写真を登録すれば、以後、その店舗ではスマホ不要で顔認証だけで支払いができるというもので、さらには、顔認証システムを使った運営のデータ化として、消費者が店舗に入った途端に顔認証システムで会員として登録され、各商品の前に留まる時間や行為を記録して、好みや趣味などを自動的分析するといいます。
支付宝(Alipay)の顔認証機能
2016年9月18日からアリペイのアプリユーザーはパスワードの入力ではなく、顔認証で登録できるようになっています。しかし安全面では疑問を抱いているユーザーも少なくありません。例えば「写真を提出しないのになぜ本人と識別できるのか」、「本人と顔が似ている人が登録できてしまうかどうか」、「もしもアカウントが盗用されて財産が移されたら誰が賠償するのか」などのような疑問を持っているのです。アリペイのエンジニアによると「顔認証はパスワード入力より安全性が高い。これまで顔認証によって、識別ミス、アカウントの盗用などのクレームを受けたことがない」といいます。ではどのようにして登録されるのでしょうか。ユーザーはパスワードで登録しておき、初めて顔認証を利用する時に携帯のカメラは自動的に360度で顔の特徴を採集してユーザーの最新状態を記録します。そして、採集した内容は(日本では考えられませんが)警察から提供されたユーザー本人の写真と比べ、本人であるかを確認します。また、ユーザーが顔認証で再登録する時は最初の登録結果を利用して再確認します。さらに、警察に提出してダブル検証をしてから登録が完了とされます。アリペイはユーザーの常用するIPアドレスなどの情報も保存しており、もし携帯を変えたり、または他の端末で登録しようとする場合はパスワードと顔認証のダブル検証が必要です。アリペイの識別技術は、例えば口を開く・頷く・瞬きをするなどの動きも識別して写真の不正切り替えなどのオンライン詐欺を防ぎ、さらには双生児のわずかな差も識別できるといいます。
日本の取り組みは
日本では三井住友カードが2016年末~2017年始の期間で三井住友銀行とNECの共同で顔認証技術を活用した決済サービスの実証実験を東京本社の社員食堂において行いました。スキームは、まず参加者の氏名、生体情報(数値化された顔情報)などをシステムに登録した上で、食堂に設置したカメラで顔認証を行い、利用情報を給与システムと連携して給与天引きで精算するという流れです。指紋や手のひら、虹彩など数ある生体認証のうち、顔認証技術を採用した理由として「専用装置の必要がなくカメラのみで認証が可能なので導入側の負担が少ないというメリットがあり、また、そのほかの認証は『かざす』などの動作が必要となるが、顔認証の場合は人が意識せずに認証できることに利点がある」と説明しています。
NECの顔認証技術「NeoFace」
顔認証の決済サービスで肝となるのがNECの顔認証技術「NeoFace」で、同技術は「顔検出技術」「特徴点検出技術」「顔照合検出」の3つの基本技術を活用しており、顔検出技術は画像の端から順に矩形領域を探索し、顔と合致する領域を抽出する「一般化学習ベクトル量子化手法」、特徴点検出技術では顔矩形領域から瞳中心に鼻翼・口端などの特徴点の位置を探索する「多点特徴点検出法」、そして顔照合技術は顔の中から目鼻の凹凸や傾きなどの特徴を抽出した後に特徴の中から個人を識別するために最適な特徴を選択する「多元特徴識別法」をそれぞれ採用しています。アメリカ国立標準技術所(NIST)が実施した「1対n認証(膨大な顔画像データから任意の顔画像を検索)」では約97%の精度を誇るといい、NEC独自で行った実証実験では「ほぼ100%で、誤認証・誤決済は無く、認証は何千カ所にも上る顔の特徴点を読み取り、それらを数値化し、登録している画像と結合させ、一定の閾(しきい)値以上になれば本人であると認証する」といいます。しかし、決済システムへの生体認証の活用にはまだ課題があります。顔認証も含めた生体認証は完全に100%の認証ではないため、いかに100%の認証を担保するかという課題が残っており、現状では氏名確認や生年月日、電話番号の下4桁などを採用した2要素認証をとらざるを得ません。
米アップルが「iPhone X」を発表しましたが、この「iPhone X」も指紋認証の代わりに顔認証の「Face ID」が搭載されました。このように生体認証手段としては特定のアクションを要しない顔認証の採用が主流となりつつあり、IoTの普及に伴い様々な場面で顔認証システムが活用されることなりそうです。
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