中国の自転車シェアリングのビジネスモデルを解説
目次
中国はシェアリングビジネス世界第2位
世界的に、何かを個人で所有するのではなく、社会でシェアしようと考える人が増え、「シェアリングエコノミー」が急速に拡大しています。インターネットに加え、SNSやスマートフォンの利用の広がりによって、これまでにないサービスが可能になってきたことがその背景にあります。中国でもシェアリングビジネスが活発になっています。中国におけるシェアリングサービスの市場規模は11兆9500億元あるといわれ、米国に次いで世界第2位、更に今後5年間は毎年約40%程度の成長が見込まれています。シェアリングビジネスの成長の背景には、最近の中国では経済成長の鈍化も影響してか、出費を抑えて快適に暮らしたいという消費者意識の高まりも関係があるようです。このようなニーズをターゲットにした中国のベンチャー企業のシェアリングエコノミーの分野への参入がどんどん増えてきています。
中国の自転車シェアリング業界は競争激化
最近、競争が激化し、話題になっているのが中国の自転車シェアリング業界です。中国では以前から「公共自転車」という名のいわゆる「コミュニティサイクル」が存在しているのですが、これは日本でも導入され始めている仕組みと似ていて、あらかじめ設置された専用駐輪スペース(サイクルポート)で乗り降りするシステムです。しかし、中国でこの1、2年で急速に普及し始めた自転車シェアリングは、専用駐輪スペースを持たず、利用者が最寄りの自転車を探して解錠して利用し、好きな場所で乗り捨てができ、利用料金はその場でスマホで決済するというものです。この分野ではMobike(摩拜単車)とofo(共享単車)が先行していますが、これを追って小鳴単車(Xiaoming Bike)、小藍単車(Bluegogo)のほか10社ほどが中国で自転車シェアリングサービスを提供しています。
摩拝単車(Mobike)とは
大手自転車シェアリングのひとつ摩拝単車(Mobike)は2015年末から上海でテスト運用を開始し、2016年4月から上海で正式にサービスを開始したばかりの企業です。スマホアプリを立ち上げるとスマホの地図上で最寄りの利用可能な自転車を見つけることができ、その自転車を予約しキープすることもできます。アプリを利用して自転車に表示されたQRコードをスキャンすると解錠されて、自転車が利用できます。利用を終えて施錠をすると料金が精算されます。料金設定は30分ごとに1元で、スマホで自動決済されます。利用には実名登録が必要で登録時には299元の保証金が必要です。自転車のロック部分には通信用のSIMカードが内蔵されていて、解錠・施錠状態の遠隔管理ができます。また、GPSを搭載しているので全ての自転車の所在地を把握でき、その位置情報をユーザーに提供できます。4年間メンテナンスフリーを目標に独自に設計・生産した車体のフレームはアルミ製で頑丈で錆にも強く、空気の充填が不要でパンクの心配もないチューブレスタイヤを採用していてメンテナンスのコストをカットしています。これまでに上海の他にも北京、広州などにサービス地域を広げ、10万台以上を運用しているそうです。摩拝単車(Mobike)は2017年1月4日に2億1500万米ドルの資金調達を実現したと発表しています。この資金調達には腾讯(Tencent/テンセント)や中国最大の旅行会社である携程旅行(Ctrip)も参加しています。
ofo (共享単車)とは
もうひとつの大手であるofo (共享単車)は北京大学の5人の学生によって設立されたベンチャー企業で、大学キャンパス内での学生向けのサービスとしてスタートしました。その後成長を続け、2016年11月には全国の200以上の大学でサービスを展開し、さらに北京、上海、広州、深圳の4大都市では市街地でのサービスも開始していて、一日当たりの利用は150万件を超えるそうです。ofo の保証金は99元、利用料は時間制と距離制が併用され、1分ごとに0.01元、1キロメートルごとに0.04元に設定されています。30分間の利用で5キロメートル走行した場合の利用料は0.5元です。ofo (共享単車) は普通の自転車を使っていてGPS の装備はなく、地図上で自転車の位置を表示することはできません。アプリで表示できるのは周辺にある自転車のおよその台数だけです。目の前に ofo の自転車があって、その自転車をすぐに利用するというサービスを想定しているからでしょう。自転車を見つけたらアプリに車両番号を入力すると解錠のための暗証番号がスマホに送られ、すぐにそこにある自転車を利用できます。ofo (共享単車)の資金調達には中国最大のライドシェアサービス会社の Didi Chuxing(滴滴出行)やスマホなどを手がける家電メーカー Xiaomi(小米)などが参加しています。また、深圳地鉄集団(深圳地下鉄グループ)と提携し、深圳市街で地下鉄と自転車シェアリングとを融合させる取り組みを始めています。
黒字化は難しいと言われているが
自転車シェアリングビジネスは一般に黒字化が難しいビジネスと言われています。1台の自転車がその自転車の導入に投下された金額を稼ぎ出すにはどれだけは稼動させなければならないかを考えても、そのことは容易に想像がつくでしょう。諸外国の例を見ても、この事業単体で利益を上げられるビジネスモデルではなく、例えば、パリであれば自転車シェアリング事業を運営する代わりに屋外広告パネルの掲出権を認められていたり、ロンドンやアメリカは命名権で利益を上げることでサイクルシェア事業の赤字を埋めています。中国の自転車シェアリングビジネスの成長も拡大再生産によるというよりは旺盛な資金調達に依存しているようです。摩拝単車(Mobike)の最高経営責任者・王暁峰氏も「確立した収益モデルはまだなく、どうすれば稼げるのかはまだ分かっていない」と明言しています。この発言はそのまま真に受けていいかどうかはわかりませんが、集めた資金調達によって事業を続けている実態もあることを示唆しています。それにもかかわらず、中国でこの分野への参入が相次ぎ、投資も活発に行われるのは、このビジネスが成長産業になると考える投資家が多いからなのでしょう。
このビジネスモデルの本質は?
自転車の利用料以外に収益源を求めるとすると、まず考えられるのは広告収入でしょう。自転車の車体を広告媒体とする以外にも自転車の利用のためのプラットホームであるアプリ上への広告掲出は収入源になると考えてよいでしょう。また、利用者から集めた保証金を運用することで収益を上げるということも考えられます。この資金を利用して別のビジネスに投資したり、金融ビジネスを行うことも考えられます。保証金は無利子であり、銀行のように店舗を構えることもなくコストがかからずに調達できる資金なので有利な運用が可能といえるでしょう。摩拝単車(Mobike)は信用ポイント制を採用していて、利用スタート時は100ポイントで、利用ごとにポイントが加算されるのですが、利用規定に違反したら減点され、持ち点が80ポイントを下回ると、利用料金が通常の100倍超になるペナルティを受けます。この情報を融資の際の信用調査に利用することも考えられます。また、大気汚染の軽減、Co2排出量の削減、市街地の渋滞緩和、放置自転車の削減などの現代の中国の都市が抱えるさまざまな社会的課題の解決に結びつくことから公的補助金を受ける可能性もあります。そしてもっとも有望だと思えるのが、IoT (モノのインターネット)のプラットフォームとしての自転車シェアリングビジネスです。自転車シェアリングビジネスのエコシステムでのIoTの「モノ」には移動するという特性があります。自転車は毎日いろいろな場所へ移動し、多数の異なる利用者に結びつくので、「スマートホーム」の家電製品のような IoT デバイスと比較してもはるかに大量で連続的なデータの収集が可能です。こうして得られたビッグデータの活用こそが今後の成長のポイントとなるのではないでしょうか。このように見てくると、この自転車シェアリングビジネスの主役は自転車ではなく、自転車はあくまでもツールにしかすぎません。自転車を媒介にして資金やデータを集め、そこから価値を生み出すビジネスモデルであると考えるべきで、だからこそ成長するビジネスモデルだと考えられているのでしょう。また、前述の社会的課題の解決との関連から持続的で社会的価値の高いビジネスと言えます。自転車シェアリングビジネスは観光や物流、自動車のライドシェアサービスなど他の業態とのコラボ事業の展開も予想されます。収集したビッグデータをどのように生かしていくのか、今後の展開が非常に注目されます。
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