標準語?北京語?広東語?それぞれの違いについて
目次
「谢谢(シェシェ)」と「多謝(ドージェ)」を間違えて大ブーイング!
「ちびまる子ちゃん」が香港で物議
2015年に公開された映画「ちびまる子ちゃん イタリアから来た少年」は、翌年に中国や香港でも公開された。作中では香港出身のキャラクターが自国の言葉を紹介する場面があるのだが、ここで使われていたのが中国の公用語である「北京語」で、香港の公用語「広東語」でなかったことから、当時の香港で物議を醸した。
作中で紹介された「谢谢」(シェシェ)」は北京語で「ありがとう」という意味だが、香港の人が話す広東語では「多謝」(ドージェ)と言う。発音も表記もまったく異なるのだ。当時、インターネット上では「ちびまる子ちゃんは香港で愛されているのに悲しい」「香港から来た設定で北京語を話すキャラクターを作る意味がわからない」など、批判の声が相次いだ。
中国本土ならどこでも標準語とされる北京語が通じるし、誰もが北京語での学校教育を受けている前提なのだが、香港ではそうではない。こうした知識の欠如は、香港の人から批判の嵐を受けることも覚悟しておかなければならない。ビジネスなどで中国と深くかかわるのであれば、北京語と広東語の違いを正しく理解する必要があると言えるだろう。
首都・北京の言葉=標準語ではない!?
中国本土で標準語とされるものは「普通話(プートンホァ)」、日本語では通称「北京語」とされているもののことで、中国のニュース番組で話されている中国語を指すと考えて間違いない。日本でいうところの、東京の人が話す標準語にほぼ近いイメージだ。
ただし、東京の人が話す言葉が完全な標準語かと言われれば、そうとは断定できないのと同じで、厳密には「普通話」と「北京語」も完全に一致するわけではない。北京にも独特の発音(語尾を「アール」化する)や、特有の語彙がある。ただし、ここでは便宜的に標準語を「北京語」として話を進める。北京語と広東語の違いについて、見ていこう。
北京語、広東語の比較表
使用人口 | 使用される主要都市 | 特徴 | |
北京語 | 13億人 | 中国、香港、台湾、シンガポールなどアジアの中国語圏 | 中国、香港、台湾のアナウンスやテレビニュースなどで使われている。日本など海外での中国語アナウンスとしても用いられる。 |
広東語 | 8000万人 | 香港、マカオ、広東省、東南アジアなど海外の華人社会の一部 | 香港でビジネスをする際は必須の言語。主に地元民同士の会話に使われる。 |
まずは中国の標準語・北京語について説明する。これは中国政府が制定した共通語で、地方によってバラバラな方言や言語で話されている言語を統一する目的で作られたものだ。中国国内では、広東語などの方言を話す人でも、地元の方言と北京語の2種類を使い分ける。地元での会話は方言、異なる出身地の人と会話をするときは北京語といった具合だ。学校やオフィスなどでも北京語を話すことが推奨されているが、その普及度は地方によって異なる。
日本での中国語アナウンスは「北京語」
中国の標準語は、北方言語の語彙と北京官話の発音をベースにしてつくられた。北方言語の語彙とは中国北部で使われてきた語彙のことで、北京官話とは明清代の宮廷官僚が使っていた言葉だ。
中国人は生まれ育った地域や住む地域によって、話し言葉に少なからずの地域性を持っているので、日常会話で完璧な標準語を話す人はかなり少数と言えるだろう。中国人にナレーションなどを依頼する際は、アナウンサーや中国語教育の関係者を採用するケースが多いようだ。
日本の空港や小売店でよく聞かれるようになった中国語アナウンスは、基本的に北京語が使われている。また、香港の公共交通機関などでのアナウンスも広東語と北京語の2種類が流れるところが多く、北京語は中国語圏の人々へのアナウンスやガイドには欠かせないものとなっている。
広東語と北京語の違いは主に発音
主な北京語(普通話)と広東語の比較の例
北京語(普通話) | 広東語 | |
こんにちは |
你好 ニイハオ |
你好 ネイホウ |
さようなら |
再见 ザイジエン |
再見 ゾイギン |
ありがとう | 谢谢
シェシェ |
多謝 ドージェ |
香港 | 香港
シアンガン |
香港 ヘォンコン |
お茶を飲む | 喝茶
ホーチャー |
飲茶 ヤムチァー |
私は日本人です | 我是日本人
ウォーシーリーべンレン |
我係日本人 ンゴーハイヤップンヤン |
広大な国土を持つ中国には無数の方言がある。各方言の違いは日本の方言のレベルをはるかに超えていて、耳で聞く分には外国語といって差し支えないほどの違いが出ることもある。
広東語は中国に多数存在する方言のひとつにすぎないが、その使用地域は広東省のほぼ全域、香港・マカオ全域のほか、東南アジアや北米などの華人コミュニティの一部でも使われており、方言としては比較的メジャーな存在だ。日本でたとえたら大阪弁のような位置づけだろうか。
さて、北京語と広東語の違いについてだが、最も大きく異なるのは発音だ。両者とも文字で表記すればそれほど大きな違いはないが、口語では全く違う言語のように聞こえる。
中国語に独特の声調(音の上がり下がり)についても、北京語は4種類、広東語は9種類(6種類という説も)だ。また、広東語は口語として発達した方言であるため、文字で表記できない音もある。このように、北京語と広東語は発音のほか、語彙、表現などさまざまな点で異なるが、あくまで話し言葉としての違いである。
中国内陸部の若者が広東語に関心
近年の香港では、中国内陸部との経済や文化の交流が盛んになったことから、北京語を学ぶ人が増えている。地元香港では広東語が話せれば不自由しないが、ビジネスなどで中国を訪れれば、北京語が話せなければ困るからだ。
逆に、中国本土には香港のエンターテイメントやカルチャーが流入し、広東語に関心を持つ若者が増えている。中国のビジネスで最先端をいくためには、北京語と広東語の位置づけの違いを正しく理解し、それぞれを場面に応じて使い分けていく必要がありそうだ。
追記(2020/12/15)
本文中にある「中国内陸部の若者が広東語に関心」は本原稿執筆当時の現象です。