redditで市場調査！？日本企業が実践した“成功事例”を公開
目次
1.カルビー｜海外の“味覚の違い”をredditで拾い商品改良に反映
海外展開の課題は「パッケージと味の好み」だった
従来の市場調査では見えない“海外ユーザーの本音”が見えるサイト「raddit（ラディット）」。カルビーはアジアや北米を中心にスナック菓子の海外展開を進めていますが、その過程で直面したのが「味覚の違い」や「パッケージに対する違和感」でした。日本国内では人気のある味や表現が、海外では「甘すぎる」「意味がわからない」「デザインが子どもっぽく見える」といった指摘を受けることがあったのです。しかし、こうしたフィードバックは通常の市場調査や展示会だけでは十分に拾えません。現地代理店からの声やバイヤーの反応も限られており、生活者のリアルな感覚をつかむことは困難でした。
そこでカルビーは、reddit上で投稿されるスナックレビューや体験談を“生の声”としてリサーチに活用する方針をとりました。これにより、特定の味に対する反応やパッケージの誤解がどこから生まれているのかを具体的に把握し、海外市場への商品最適化の糸口をつかんだのです。
reddit投稿をモニタリングし「違和感」の声を発見
カルビーの担当者は、raddit上の英語投稿をモニタリングする中で、「Japanese chips are weird」（日本のポテチは変わってる）といった率直なスレッドに着目しました。そこでは、現地ユーザーたちが日本のスナックを購入して試食し、味やパッケージ、におい、食感などについてリアルに語り合っていたのです。特に注目されたのは、「ミルク味のポテトチップスって意味が分からない」「味が薄すぎる」「“うすしお”って何？」といった“文化的なギャップ”。こうした感覚は、一般的な調査票では見落とされがちな部分です。Redditではユーザー同士が率直に意見交換するため、好意的な声と同じくらいネガティブな感想も集まります。カルビーはこの情報をもとに、「何が誤解を生むのか」「何を伝え直せばよいか」という視点で、味の方向性とパッケージの文言・デザインの改善に踏み切ることができました。
現地視点で見直したことで、反応が変わった理由
カルビーはraddit上のフィードバックを分析し、海外で販売する商品において以下の2点を重点的に改善しました。1つは現地の味覚に合うよう、塩味や香辛料の強さを再調整したこと。もう1つは、パッケージに記載する味名・キャッチコピーを英語圏ユーザーが理解しやすい表現に変更したことです。たとえば“うすしお味”は直訳では意味が通じにくいため、“lightly salted”や“subtle salt”など、より伝わりやすい表現を採用しました。こうした改善の結果、SNS上での口コミやレビューのトーンが改善され、特定商品ではECサイトの評価が向上したといいます。現地に行かなくても、生活者の反応に直接触れられるradditの特性をうまく活かした例です。展示会では拾えない“声”に耳を傾けたからこそ、商品と市場のギャップを埋めることができたのです。
2.任天堂｜AMAで“開発の裏側”を語り、ファンとの距離を縮めた
ゲーム発売前にreddit上でAMAを開催した理由とは
任天堂は、グローバルで圧倒的なブランド力を持ちながらも、海外ファンとの“直接の対話”を行う場面はそれほど多くありませんでした。そんな中、2017年に話題となったのが、Switch用ソフト『スーパーマリオ オデッセイ』の発売直前に行われたreddit上でのAMA（Ask Me Anything）セッションです。AMAとは、ユーザーが自由に質問できる公開インタビューのような仕組みで、raddit特有の人気コンテンツです。任天堂はこのAMAに、開発チームのプロデューサー・小泉歓晃氏を登場させ、ファンの質問にリアルタイムで答える形をとりました。これにより、「開発の裏話」や「なぜこの仕様にしたのか」といった質問が殺到し、発売前の期待感を高めつつ、ファンとの心理的距離を縮める戦略的コミュニケーションとなりました。
開発者が直接語った“新機能の背景”とユーザーの反応
AMAでは、「マリオが敵に“乗り移る”という斬新なゲームシステムは、どうやって生まれたのか？」といった質問が目立ちました。これに対して小泉氏は、子ども時代の“帽子遊び”の記憶や、マリオらしいユーモアを融合させた発想であると回答。こうした開発の意図や試行錯誤を、文字通り“開発者の声”として聞ける場は貴重です。また、radditユーザーは反応もストレートで、「これはシリーズ最高傑作になる予感がする」「この機能に感動した」といったコメントも多く寄せられました。投稿には数千件のupvoteがつき、まとめサイトや海外メディアでも取り上げられるなど、AMA自体がPRの一部として機能したともいえます。単なる質疑応答ではなく、“開発者の人間性”まで感じさせる場となり、海外ファンとの絆を強めました。
海外市場でのブランド信頼を支えた「対話力」
任天堂のraddit AMAは、商品を“売る”ためではなく、ユーザーと“語り合う”ための場として設計されていました。その姿勢がradditコミュニティにも好意的に受け入れられ、コメント欄には「開発者がこんなに丁寧に答えてくれるなんて」「任天堂はやっぱりファン思いだ」という投稿が並びました。海外のファンは、単なるゲームの品質だけでなく、「企業が自分たちをどう見てくれているか」に敏感です。その意味で、raddit AMAは**“開発者の顔が見える”ブランド体験**として非常に効果的でした。また、radditという場を活用したことで、広告に懐疑的な層からも信頼を得られる稀有な事例となっています。以降、任天堂はAMA形式の対話を他タイトルにも展開しており、radditは同社のグローバルコミュニケーション戦略の一端を担うプラットフォームになりつつあります。
3.日本一ソフトウェア｜社長自ら海外ファンと対話し話題化に成功
「こんにちは、日本からです！」から始まったAMA
2021年、日本一ソフトウェアは『魔界戦記ディスガイア6』の海外展開を前に、radditでAMA（Ask Me Anything）を実施しました。AMAに登場したのは、なんと同社社長・新川宗平氏本人。投稿の冒頭では「Hi raddit! I’m Sohei Niikawa from Japan（こんにちは、raddit！新川宗平です）」と挨拶し、ゲームファンからの質問を広く募集しました。AMAは英語圏向けに開催され、日本語を英訳する通訳スタッフ（北米法人の“プリニーA”氏）がリアルタイムで補助する体制も整えられました。これにより、日本語が話せない海外ファンからも多くの質問が寄せられ、社長自らが誠実に答える姿勢が話題を呼び、reddit上で好意的な反響を集めました。「こんなに近く感じたのは初めて」といった声も上がり、raddit AMAが国境を越えた“心の距離”を縮める効果を発揮した好例となりました。
翻訳スタッフ同席でリアルタイムに国境を超えた対話
日本一ソフトウェアのAMAでは、英語圏ユーザーとの円滑なやりとりを実現するため、通訳者を介した「日⇔英のリアルタイム翻訳対応」が実施されました。具体的には、海外ユーザーからの英語の質問を社長に日本語で伝え、それに対する回答を英訳してredditに投稿するという、地道なやりとりです。やりとりは2時間以上にわたり、開発背景やシナリオの構想、海外プレイヤーに対する思いなど、通常のプロモーションでは伝わりづらい“開発者の気持ち”が共有される貴重な場となりました。こうした丁寧な対応に、ユーザーからは「質問が多い中、全員にしっかり答えてくれた」「この姿勢が好き」といったコメントが多数寄せられました。単なるSNS施策ではなく、“ファンを理解しようとする企業姿勢”が伝わったからこそ、信頼感が高まり、投稿自体が長期的なブランディングにも貢献しました。
Redditが“イベント代替”となったコロナ禍プロモ戦略
このAMAが実施されたのは、2021年1月。ちょうど世界中で新型コロナウイルスの影響が深刻化し、リアルイベントや海外出張が制限されていた時期でした。例年であれば、ゲームショウや北米アニメイベント（Anime Expoなど）でのプロモーションが主流だった日本一ソフトウェアですが、コロナ禍ではそのような接点が断たれていました。そうした中でreddit AMAを活用したのは、“オンラインでもファンと直接つながる方法”を模索した結果でした。特に印象的だったのは、「本当は海外に行って、皆さんに直接会いたいのですが、今はこの形でしか会えません」と新川氏が発言したシーン。これが共感を呼び、「それでもつながってくれてありがとう」「あなたの誠実さに感動した」といった反応が続出。redditは、単なるプロモーションではなく、コロナ禍における“対話の代替手段”としても強く機能したのです。
4.日産自動車｜redditの遊び心ある投稿がバズと好感を生んだ広告事例
H3-1：新車PRで“てんとう虫”を送った異色キャンペーンとは
2013年、日産自動車のアメリカ法人がreddit上で仕掛けたキャンペーンは、広告というよりも“遊び心ある対話”として注目を集めました。新型「Versa Note」の北米ローンチにあたり、日産の担当者がreddit上で「Amazonであなたが欲しいものは何ですか？」というスレッドを立て、ユーザーの願いをかなえる企画を開始。するとユーザーからは、ゲーム機や家電、さらには“4,500匹のてんとう虫”といった風変わりなリクエストまで殺到しました。日産は実際にこれらの商品をAmazonで購入し、希望者に配送。単なるプレゼントではなく、redditユーザーの文化＝「面白がる・ネタに乗る」ことを理解し、それに溶け込んだ対応が大きな話題となりました。企業アカウントにもかかわらずreddit内で高評価を得るという、極めて珍しい成功例です。
「買ってあげるよ！」redditユーザーの声に応える姿勢
このキャンペーンが特に秀逸だったのは、「企業→ユーザー」ではなく「企業×ユーザー」の対話の形をとっていた点です。日産のredditアカウントは、参加者ひとりひとりのコメントに対して冗談を交えつつレスポンスし、その流れで「OK、買ってあげるよ！」という軽妙な返しを次々と展開しました。redditの文化では、広告色が強い投稿や“企業目線の押し売り”は嫌われやすい傾向にあります。そんな中で日産は、ユーザーの遊びに乗る姿勢とユーモア、そして実際に行動する本気度を見せたことで、自然と好意的な反応を獲得しました。スレッドは数千件のコメントとupvoteを集め、reddit運営スタッフからも「近年で最も成功したキャンペーンのひとつ」と称賛されています。売り込まなくても、信頼と記憶に残る広告は作れる——その好例と言えるでしょう。
redditの文化に寄り添ったことで得られた海外の反響
この日産の事例は、reddit広告の成功例として現在でも語り継がれています。ポイントは、redditの空気を“読んだ”ことにあります。redditユーザーはPRに敏感で、企業投稿には懐疑的です。しかし逆に、「企業アカウントでもここまでやるのか」「分かってるな」という共感を得られれば、一気に支持が集まるのもradditの特徴です。日産はそれを理解し、redditに合わせた言葉づかいやタイミング、プレゼントの選び方までも工夫しました。その結果、raddit外のメディアにも波及し、「てんとう虫を贈った日産」という話題性は海外のマーケティング業界誌にも掲載されるほど。コストをかけずに大きな認知と共感を得たこの事例は、“radditならでは”の成功パターンとして、今なおマーケターに示唆を与え続けています。
5.redditで市場調査もファン交流も。小さく始めて大きな成果に
海外の“声”は拾える時代。redditは無料で始められる調査ツール
海外の顧客の声を拾うには、以前なら展示会や現地視察、代理店を通じた情報収集が主な手段でした。しかし今では、radditのようなSNSを活用することで、現地に行かずとも、リアルな本音や評価に触れることが可能です。しかもradditはアカウント作成も閲覧も無料。誰でもすぐに始められるハードルの低さが魅力です。特に、Subredditというテーマ別掲示板の存在により、「特定の商品カテゴリ」「特定の国・文化」「特定の課題」に特化した情報をピンポイントで探すことができます。最初は読むだけでもOK。海外市場調査に必要な“空気感”や“感情”を、統計では見えない形で得ることができます。無料かつ即効性のある補助リサーチ手段として、radditは非常にコストパフォーマンスに優れたツールだといえるでしょう。
成功企業に共通するのは「観察」と「対話」の姿勢
今回紹介したカルビー・任天堂・日本一ソフトウェア・日産の事例に共通しているのは、redditを「マーケティングの場」ではなく「観察と対話の場」として使っていることです。radditでうまく成果を出す企業は、決して自社のPRや売り込みを押し付けていません。むしろ、ユーザーの投稿や反応を丁寧に読み取り、「彼らが何を感じているのか」「どこに違和感を持っているのか」といったインサイトを拾う姿勢を大切にしています。そして時にはAMA（Ask Me Anything）などの対話型コンテンツを通じて、“売る”ではなく“つながる”姿勢で信頼関係を築くのです。このようなスタンスがradditという文化の中では非常に重要で、広告では届かない層にも響きます。つまり、raddit活用の成功は「どんな投稿をするか」以上に、「どんな姿勢で臨むか」が鍵を握っています。
まずは読むことから。日本企業こそredditを活かせる理由とは
radditは、日本企業にとってまだ未開拓の領域ですが、だからこそ今が“ブルーオーシャン”とも言えます。日本語の情報が少ない分、現地ユーザーの本音がむき出しになっており、その中から自社にとって有益な気づきを拾う余地がたくさん残されています。また、radditはBtoC企業だけのものではありません。製造業、ソフトウェア、教育系など、BtoB領域でも“専門系Subreddit”が充実しており、商談のヒントや現地のニーズ、導入障壁などが語られています。英語力が不安でも、翻訳ツールやChatGPTなどを使えば十分に読みこなせます。まずは「読むだけ」でもOK。redditは調査ツールとしての可能性を秘めた、日本企業の“第3のリサーチ手段”になり得るのです。今こそ、海外市場とつながるための一歩をradditで踏み出してみてはいかがでしょうか。
