
現地のリアルな声を拾う!LinkedInで始める海外市場調査のステップガイド
目次
1. なぜLinkedInが“現地感覚”をつかむのに適しているのか?
LinkedInならではのビジネス属性データの活用価値
LinkedInは、企業や個人のビジネスプロフィールが豊富に登録されており、業種、役職、勤務地などのビジネス属性データを体系的に検索できます。これは他のSNSにはない特徴であり、特定の業界に属する現地ユーザーを絞り込むことで、現地市場の構造やニーズを把握する手がかりになります。日本語での情報が乏しい国や地域であっても、英語や現地語で発信されている内容を通じて、ビジネスのリアルな現状を掴むことができます。市場参入前の情報収集において、LinkedInは信頼性と網羅性の高い情報源となるのです。
オープンな情報と“暗黙知”の境界を探れるプラットフォーム
LinkedIn上には、企業の公式情報だけでなく、社員による投稿やコメントなどから、組織の内情や業界のムードを読み取ることができます。こうした情報は、表に出づらい「暗黙知」に近く、たとえば「現場では本当は何が起きているのか」「トレンドに対して現地企業がどう動いているのか」といった空気感を知る手がかりになります。特に海外進出を検討している日本企業にとって、数字や報道では分からない“現地の温度感”を知ることは、事業判断を大きく左右する重要な視点です。LinkedInはその温度感を探るのに適した場所と言えるでしょう。
「顧客の声」より「業界の声」に強い:SNSではなく業界ネットワーク
LinkedInは一般消費者向けではなく、ビジネスパーソンが利用するネットワークです。そのため「ユーザーの口コミ」ではなく、「業界の声」に近い情報が集まりやすいのが特徴です。たとえば特定業界で何が課題とされているか、どのようなテーマが注目されているか、といった傾向を投稿内容や交流履歴から読み解くことが可能です。これにより、顧客理解というよりは、市場構造や業界動向の把握がしやすくなります。BtoBの海外市場調査においては、このような業界ネットワーク視点が非常に役立つのです。
2. 海外市場調査の起点は“現地の仮説づくり”から
「何を調べるか」より「何を確かめたいか」から始める
海外市場を調査する際、最初に大切なのは「何を調べたいか」ではなく「何を確かめたいか」という仮説視点です。たとえば「この国では◯◯の導入が進んでいないのではないか」「業界構造は日本とは異なるのではないか」といった自社内の仮説を立て、その検証手段としてLinkedInを活用するという流れが効果的です。こうすることで情報収集が目的化するのを防ぎ、具体的なビジネス判断につながる情報を得ることができます。仮説があるからこそ、必要な情報が明確になり、効率的な調査が実現します。
業界構造・商習慣・決裁フローなど、仮説テーマの整理
LinkedInを使って海外市場を調査する際は、単なるトレンドや人気製品ではなく、業界構造や商習慣、決裁フローといった根本的な要素に注目することが重要です。たとえば「技術導入の意思決定はどの部署が握っているのか」「代理店が強い市場なのか、直販が主流なのか」といった情報は、現地の投稿や職歴から推測できることがあります。こうした仮説テーマを事前に整理しておくことで、LinkedIn上の限られた情報からでも、意味のあるインサイトを引き出すことが可能になります。
調査対象の選定ではなく「仮説検証用ユーザー像」の明確化
調査を進めるにあたっては、「どの企業を調べるか」ではなく「どんなタイプの人の声を拾いたいか」を明確にすることがポイントです。たとえば現地のマーケティングマネージャー、製造業の購買担当、政府系機関のアナリストなど、仮説に沿った職種や立場の人をイメージして検索します。これにより、ターゲット企業の内情や業界全体の動向を把握しやすくなります。属性がはっきりしていることで、検索精度も高まり、効率的にリサーチを進めることができるようになります。
3. 情報を引き出すLinkedInの使い方:応用編
投稿・コメントから読み取れる「非公式」な本音
LinkedInでは、ユーザー自身が投稿やコメントを通じて日々の仕事や感じた課題、業界の動向について発信しています。これらは企業の公式発表には現れない「現場のリアルな声」として、非常に価値があります。たとえば「この製品は期待外れだった」「こういうサプライヤーが今不足している」などの本音は、現地の動向や課題を知るうえでの重要なヒントになります。匿名性のないLinkedInだからこそ、一定の信ぴょう性を持つ声として読み取ることができるのです。
過去職歴や転職先から読み解く、業界の変化
LinkedInではユーザーの過去職歴や転職履歴も確認することができます。たとえば、同業界の人が特定の企業から別の企業へ大量に転職している場合、市場全体での勢力図の変化や、成長しているプレイヤーを把握する手がかりになります。また、ユーザーがどのような職種からどの職種へキャリアを移しているのかを見ることで、業界内のトレンドやニーズの変化も感じ取れます。こうしたダイナミズムをつかむことで、現地市場の発展段階や競争状況を把握しやすくなります。
つながらなくてもできる!リサーチ用プロフィール観察術
LinkedInでは、ユーザーと直接つながらなくても公開されているプロフィール情報を見ることができます。この機能を活用すれば、現地企業のキーパーソンがどのようなバックグラウンドを持ち、どのようなキャリアを歩んできたかを把握できます。たとえば複数の同業者を調べることで、共通するスキルや職歴、使用ツール、関心分野が見えてきます。これらを比較することで、業界の標準や傾向を読み解くことができます。地道な作業ではありますが、信頼性の高い一次情報を得る有効な手段です。
4. バイアスを避けて正しく情報を読み解くには?
LinkedInの「偏り」を認識する:ユーザー層の特徴
LinkedInはあくまでビジネスプラットフォームであり、利用者には一定の属性傾向があります。たとえば、グローバル志向の強い業界や、テクノロジー・コンサル・外資系企業などの職種に従事する人が多く、ローカル企業や伝統産業に従事する人の情報は相対的に少なくなりがちです。このような偏りを理解せずに情報を鵜呑みにすると、対象市場の実態とずれた判断をしてしまう可能性があります。LinkedIn上の情報はあくまで一部の視点に過ぎないことを認識しながら、他の情報源と組み合わせて総合的に判断する姿勢が求められます。
1次情報と2次情報の切り分けと判断軸
LinkedInで得られる情報は、直接見たプロフィールや投稿といった「1次情報」と、それを見て自分なりに分析・解釈した「2次情報」に分けられます。市場調査では、特にこの2つを明確に区別して扱うことが重要です。たとえば「多くの人が転職している」という1次情報を、「この企業は不人気だ」といった2次的な解釈に飛躍するのは危険です。得られた情報に対して常に「これは事実か?それとも推測か?」と自問しながら、情報を段階的に評価する意識を持ちましょう。
投稿の温度感から“トレンド”と“個人意見”を区別する
LinkedIn上には多くの投稿が流れますが、それが業界全体のトレンドを反映しているのか、個人の一意見なのかを見極める必要があります。たとえば、ある製品や働き方に関する投稿が多く見られる場合でも、それが一部の業界や都市に限られた動きであることもあります。共感の数、コメントの多さ、投稿者の職種や立場などをチェックすることで、その情報がどの程度の広がりや信頼性を持っているのかを判断できます。表面的な話題性に流されず、投稿の「温度感」を感じ取る目を養うことが大切です。
5. 小さく始める海外市場調査、次のステップへ
まずは観察から。つながらずにできる範囲でOK
LinkedInを活用した海外市場調査は、いきなり誰かとつながる必要はありません。まずは検索機能やプロフィール閲覧、投稿チェックなど、観察ベースで始められる範囲から取り組むのが効果的です。特定の業界や地域に絞って情報収集を行うだけでも、現地の温度感や業界特有の動向が見えてきます。最初から完璧な答えを得ようとせず、少しずつ仮説を立てながら観察していくことで、よりリアルな市場像が浮かび上がってくるでしょう。
気づいたことはメモして仮説をアップデート
観察を通じて得られた情報や気づきは、必ず記録するようにしましょう。投稿の傾向、職歴に現れる共通点、使用されている業界用語など、細かな点でもメモしておくことで、次第に現地特有の傾向が見えてきます。そうした情報をもとに、当初立てた仮説を柔軟にアップデートしていくことが、LinkedInリサーチの醍醐味です。定期的に見直しと仮説更新を繰り返すことで、情報の解像度が徐々に高まり、判断材料としての質も向上していきます。
慣れてきたら、現地のキーパーソンとDMして反応を見てみよう
ある程度観察に慣れ、情報収集にも手応えを感じられるようになったら、思い切って現地のキーパーソンにダイレクトメッセージ(DM)を送ってみるのも一つの方法です。単なる営業ではなく、情報交換や業界動向に関する質問であれば、意外と返信がもらえることもあります。もちろん礼儀正しく、簡潔な英語でのメッセージが基本ですが、実際に現地の声を得ることはリサーチの精度を飛躍的に高めてくれます。小さなアクションから、信頼できる情報源との接点が生まれることもあるのです。