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メタバースは悟りに向かうのか?

2022.01.20
高畑龍一

今年の最もホットな話題の一つがメタバースだろう。「ウチも何かしたい」という相談が増えてきたので、私たちの間での議論を少し紹介しておく。

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まず、私たちとしては、「世界がシームレスにつながる」という可能性にかなりワクワクしている地域、外見、親ガチャなどの制約が取り払われ、いろいろな国や立場の人がつながる。あちこちで新しいことが起こり、かなりエキサイティングな体験ができるはずだ。

ところが、「東京のビル持ちの家に生まれたイケメン」にとっては面白くない事態になるかもしれない。アフリカの貧困家庭から出てきた人などともろに競合することになるからだ。メタバースでは、どういう境遇の人であれ面白いことを言ったりやれば賞賛されるのだから、リアルの勝ち組と負け組が逆転する可能性がある。メタバースでの稼ぎをリアルに持ち込めば、リアルの経済的な格差も解消する。

しかし、リアルはまだ残る。残るというか、この段階でもリアルがベースだ。メタバースが嫌であれば行かなければいいし、メタバースでイケメンを演じていてもリアルで鏡を見れば現実に引き戻される。「没入感」は「のめり込んでいる」場所にいることが前提なのであり、リアル=主、バーチャル=従という関係は残る。

この主従関係を一変させるのがコンピューター・トゥ・ブレインだ。これが実用化されてくると、リアルの体験とバーチャルの体験とを区別できなくなる。リアルとバーチャルが等価になる。没入する必要もなくなる。バーチャルで自己を実現していければ、リアルな満足感を得られる。

バーチャルで五感を備えて思考できるようになれば、リアルの必要性がさらに低下する。バーチャルではほぼ全ての望みが叶うようになるのだから、バーチャルでの体験の方がはるかにリッチになる。いや、望みがすべて叶うことが分かっているのだから、望むということもなくなるかもしれない。煩悩から解放される。

ここに至って身体から完全に解放される。つまりリアルでは死んでいてもバーチャルでは生き続けるようになる。財産をどこかに信託して電気代を払い続けていればいいだけだ。バーチャルでの自己の実体(という言い方も変だが)は電気回路か下手をすると埃のようなものになるので、自己と他者、自己と宇宙との区別も曖昧になる。そのような状態で何かを感じて思考することが悟りの境地なのかもしれない。

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大袈裟な話ではあるが、2022年に何をするかを考えるに際して大まかなベクトルは考えておいた方がいいと思って議論している次第。いまの技術革新のスピードを考えると、こういうことが実現するまでに100年もかからないはずだが、どこまで実現するかも人類の煩悩の程度によるだろう。

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